建設業の人手不足の現状と対策
建設業界は人手不足が深刻な業界と言われています。その現状や原因、また解決策について把握しているでしょうか。
この記事では、
・データで見る建設業界の人手不足の現状
・建設業界で人手不足が起こる原因
・人手不足の解決方法
以上3点について解説していきます。
データで見る建設業界の現状
まずは建設業界が抱える現状の問題点を知りましょう。建設業界の年齢層や倒産件数をデータでまとめました。
建設業界の高齢化
建設業界は、他産業と比較して高齢化が深刻な業界です。
2022年では、建設業界従事者のうち55歳以上の割合は35.9%。日本国内の全産業平均では55歳以上の割合は31.5%のため、高齢化率が平均を上回っています。
さらに、29歳以下の若者比率が少ないことも問題です。建設業の29歳以下の人口は11.7%で、全産業平均の16.4%を大きく下回っています。つまり、このままでは今後ますます建設業界の高齢化が深刻化していくことになります。
建設業の生産体制を今後も維持していくためには、若者の業界参入を促進し、また入職した若者が業界を離れないように、「この業界でずっと働いていきたい」と思えるような仕組みづくりを会社単位、業界単位で行っていくことが必須です。
倒産件数・人手不足倒産の増加
近年、建設業では倒産件数が上昇傾向にあります。
倒産の原因は様々ありますが、近年問題となっているのが人手不足倒産です。
建設業では、建築士や施工管理者など現場を回すために必要不可欠な資格保持者がいますが、そのような資格保持者が離職することで事業運営が困難になり、人手不足倒産につながりやすいという背景があります。
2022年度の人手不足倒産全体のうち、4件中1件は建設業が占めているという調査結果もあり、人手不足倒産に関しても、建設業は他業界に比べ深刻な状況にあります。
建設業の人手不足が当たり前と言われる原因
建設業界の人手不足というトピックに対する反応をリサーチすると「人手不足は当たり前だ」「業界がこうなったのは自業自得だ」といった厳しい意見が散見されます。
なぜ、「建設業の人手不足は当たり前」と言われるのか、その原因を調べたところ、業界に対する不満や不安感が複数挙がりました。
休日・有給休暇が取りにくい職場環境
建設業への新規参入者が増えない原因としてよく挙がるのが「建設業は休みが少ない」というイメージです。
実際に、建設業界は週休1日が当たり前という時代もあったため、このイメージが現代でも根強く残っています。
しかし近年では、建設業界の週休2日を推進する動きがあり、最新の調査では建設業の年間休日数は平均113日というデータが出ています。建設業界の労働環境はかなり改善が進んでいるというのが実情です。
このような状況の中で、未だ休みを十分に確保できていない企業は、休日の少なさが人手不足が改善されない原因となっている可能性があります。十分な休日数が確保できている企業でも、旧来のイメージを払しょくするために自社の労働環境を積極的にPRする必要があります。
時間外労働が当たり前の環境
建設業界は、客先で作業をすることが多い性質上、就業時間が過ぎても現場作業を続けるなどの、いわゆる「残業」は少ない業界であると言えます。
しかしながら、現場へ向かうまでの移動時間や、作業が終わった後事務所に戻らないといけないなどの慣習によって時間外労働が発生しやすい業界でもあります。こういった時間のロスに不満を抱き、建設業から離れて行ってしまう人も多く存在します。
意味のない時間外労働を減らすためには、直行・直帰を許可するなどの労働環境の改善や、出先でもインターネット経由で勤怠管理を可能にする、日報の提出を可能にするなどのデジタル化が有効です。
事故や怪我が多い現場作業への不安感
仕事の性質上、建設業界が労働災害や事故に遭いやすい業界であることは事実です。
「危険な仕事」というイメージを持たれていること、またそれが事実であることは認識した上で、自社の安全対策や事故の発生率等を発信し、「いかに危険が起こらないように対策しているか」を伝えることが大切です。
年功序列の給与制度による不満
建設業界は、比較的給与の高い業界です。しかし、特に中小企業などでは給与評価制度が旧時代的なままの企業も多く、そのことが給与に関する不満を生んでいます。
個人の頑張りを評価する制度を設けなければ「どんなに頑張っても昇給率が周りと一緒」「自分より仕事ができないベテランが多く給料をもらっている」など若者の不満に繋がり、離職を生んでしまいます。
重層下請け構造への不満
建設業特有の業界構造への不満・不信感も、人手不足の原因になっています。
業界への入職後、ゼネコン、サブコンや地場大手建設会社が最上位にいる構造を内部で目の当たりにすると「ゼネコンに入れなかった時点で負け組」「建設業界はこのまま変わらず下請けは搾取されつづける」などの不満が生まれ、離職につながります。
入職者が抱く建設業の業界構造への絶望感は、会社単体でどうにかできる部分が少なく、上記のような原因で建設業界を離れてしまう人を止めるのが難しいというのも困った点です。
転勤や出張が多い仕事への不満
各企業の取り扱う工事によりますが、転勤や出張が多いことが業界を離れる原因・避ける原因に繋がることもあります。
数ヶ月地方の現場に行き、その次はまた違う地方に数ヶ月行くというような働き方の場合、プライベートを大切にしたいと考える求職者とは求めるものにズレが発生するため、事前にミスマッチを避ける努力が必要となります。働き方をありのままに説明し、納得できる人材を採用することでミスマッチの解消につながります。
建設業の人手不足対策に有効なこと
建設業界での人手不足を解消するための対策は大きく分けて2つあり、
・今建設業界で働いている人の離職防止
・入職者を増やすこと
上記2つの軸でそれぞれ対策していくことが大切です。具体的な対策をまとめました。
雇用の安定と給与アップ
建設業界で働いている人の離職防止のために大切なのは、「今いる会社で勤め続けていれば将来に不安を抱かず、安心して生活ができる」と思ってもらうことです。そして、そのために必要なのは満足のいく給与を支給することです。
個々の能力を評価し、若者からベテランまで納得できる給与制度を構築することは会社の人手不足を解消するために最優先で取り組むべき対策です。
積極的に働き方改革を進める
建設業界は、旧来の3Kのイメージが根強く残っています。そのイメージを払しょくできれば、業界に対する漠然とした不安を持っていた人材を入職へと繋げることができ、また今いる人材の離職防止にも繋がります。
デジタル化による働き方改革
建設業界で起こる主な時間ロスは現場と事務所の複数拠点があることで発生します。
・出先でもインターネット経由で勤怠管理を可能にする
・出先からの日報の提出を可能にする
・ノートPCやタブレットを支給し、社外での事務作業を許可する
・web会議を利用し、現場の状況を離れた場所からでも確認できるようにする
など、デジタルツールを用いて不必要な移動を減らすことが初歩的な対策として有効です。
残業時間の管理など法令順守意識を高める
法令順守意識を高め、労働者の権利を守ることは人手不足防止・解消の基本的な対策となります。
近年では、建設業にも残業時間の上限規制が導入されたり、有給休暇の取得義務化が進むなど、労働に関する法律は変化しています。時代の変化をキャッチし、当たり前のことを当たり前に守る会社であることが求められています。
多様な人材が活躍できる環境整備
年齢・性別・国籍を問わず多様な人材を受け入れられる体制が整えば、その分人手不足が解消しやすくなります。これから求められる会社のあり方についてまとめました。
若者を育成する環境を整備する
旧来の建設業界では「見て覚える」の文化が根付いており、若者や新人に対して指導が不十分な企業が多くありました。近年では、この文化は大分見直され、研修の実施やマンツーマンでの指導等、丁寧な指導を行う企業が増えています。
独り立ちまでの道筋を企業が提示できるよう、社内体制を整備することは必須と言えます。
外国人人材の活用
建設業における外国人労働者の比率は年々増えており、日本国内では少子化が進んでいます。これからの時代に企業を存続させていくのであれば外国人人材の活用を考えることは必須であり、受け入れ態勢を整えることが人手不足解消への対策となります。
従業員が働き続けたいと思う職場環境を作る
今働いている従業員がなぜ自社を選んだのか、自社に対して満足していることと不満に思っていることは何かを把握すると、自社の魅力と改善点が見えてきます。
従業員へのアンケート調査や定期的な面談を実施し、職場環境を改善する際の参考にしましょう。
自社の魅力を発信する仕組み作り
3Kのイメージが依然として根付いている建設業界。人手不足を解消するためには、旧来の建設業のイメージとは違う自社のポジティブな実態を根気強く発信していくことが大切です。
発信は、自社のHPやSNS、また採用説明会の際など、自社に興味を持った人が目にする機会のある場所で行いましょう。広報担当を設置するとより戦略的に実践できます。
まとめ
建設業界の人手不足の現状から人手不足が起こる原因、また人手不足の対策方法について解説しました。
建設業界の人手不足を解決するには、旧来の良くないイメージを払しょくできるよう、根気強く労働環境の改善や発信を行っていくしかありません。
一社一社が真摯に取り組めば業界のイメージも前向きに変わっていきます。地道に、働きやすい業界を作っていきましょう。
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