電気事業者の感電事故(感電死傷)は、年間で11件~18件発生しています。
事故を防ぐには、感電事故が起こった過去の事例から学び、再発防止策を知ることが大切です。
この記事では、
について解説していきます。
感電事故に関する基礎知識
まずは、現場で起こる感電事故についてデータを知りましょう。
電気事故の種類や、感電事故の発生件数についてまとめました。
電気事故の種類
現場で発生する主要な電気事故は、以下の3種類です。
・感電事故
・電気火災
・電気工作物の破損層による死傷・物損
いずれの事故も、電気を扱う仕事をする以上、被災のリスクが付きまとうものです。
高い安全管理意識を持ち、予防することが大切です。
感電事故の発生件数推移
感電事故*を含む、電気事故の発生件数推移をグラフにまとめました。
最新の調査である2022年では、電気事業者の感電事故(感電死傷)は12件発生しています。
直近5年間では11件~18件の間を推移しており、発生件数は横ばいです。
電気関連のほかの死傷事故と比較して、感電事故は発生件数が多く、電気を扱う職業の方にとっては最も気を付けたい事故であるといえます。
※ 感電事故の定義について: 経済産業省で「感電死傷」として報告されているものを、聞きなじみのある言葉に置き換え「感電事故」としてご紹介しています。充電している電気工作物や、当該箇所からの漏電又は誘導によって充電された工作物等に体が触れたり、電気工作物に接近して閃絡(せんらく)を起こしたりすることで体内に電流が流れ、またはアークが発生し、直接それが原因で死傷(アークによる火傷等も含む)した事故や、電撃のショックで心臓麻痺を起こしたり、体の自由を失って高所から墜落したりすることなどにより死傷した事故を対象としています。
感電事故の事例紹介
実際に起こった感電事故の事例をご紹介します。
事故発生原因のほか、対策方法についても記載しています。
照明工事中の感電事故事例(蛍光灯増設中に感電死)
事例1つ目は、電気工事中の感電事故です。
普段の電気工事中にも、感電事故による死亡リスクがあることを忘れずに作業を行う必要があります。
概要
午後3時半頃、Aは作業床の下に取り付けた蛍光灯に接続されている電線コード3本と電源コードを接続するため、電源コードに絶縁スリーブを取り付け圧着ペンチで挟んだときに、圧着ペンチの歯が絶縁スリーブを突き抜け、電源コードの充電部分にまで達して感電した。Aは倒れているところをY社の従業員に発見されたが、既に死亡していた。
詳細
被災時のAの服装は、作業服、布製の作業帽および運動靴であった。Z社は、当日の作業で絶縁用ゴム手袋、絶縁靴等の絶縁用保護具を用意しておらず、Y社も用意していなかった。また、Aが使用していた圧着ペンチは、通常の作業で用いられているもので、活線作業用に絶縁された工具ではなかった。 当日は、Z社の社長BもY社に来ていたが、別の場所でB自ら作業を行っており、Aに対しては作業場所と作業内容の指示を行ったのみで、感電の防止等、作業の安全に関する指示はしていなかった。
Z社では、作業者に対し感電防止についての教育を実施したことはなかった。そのため、作業者も感電の危険についての認識は薄く、低圧電気に係る工事では普段から活線のままで作業を行っていた。
原因
1.工事内容の事前の確認が不十分だったこと
2.絶縁用保護具を使用せず、絶縁されていない工具を使用していたこと
3.感電防止についての指示や安全衛生教育が行われなかったこと
対策
1.作業方法について発注者と十分な打合せを行い、対策を検討した上で作業を行うこと
2.絶縁用保護具等を使用させること
3.感電防止に係る安全衛生教育を実施すること
夏場の感電事故事例(クーラーの配線工事中に感電死)
事例2つ目は、夏場のクーラーの配線工事中の感電事故です。
7月~9月の夏場は、感電事故が最も多くなる季節です。その理由は、気温による肌の露出が高まることと、汗によって体の絶縁抵抗が低くなることです。また、暑さによって作業中の注意力が低下することも原因だと指摘されています。
概要
工場の窓枠の下方拡張を行うため、窓枠下に敷設されていたクーラーの電源用電線管を徹去し、新たに電線管を敷設する工事中に事故が発生。新設電線管が敷設された後、既設電線と新設電線との切替えを行うため、被災者が枠組み足場と加工機械の間に足をかけ、窓と窓との間の壁面に設けられた分岐箱内部の既設電線を活線(200V)のまま電気工事用ペンチで切断しようとした時に感電した。
詳細
被災時の被災者の服装等は、ゴム底の安全靴、長袖の作業服を着用し、手は素手のままであった。 使用していたペンチは握りの部分がビニールで絶縁被覆された絶縁柄ペンチであったが、被覆が損傷し、1~4mmの穴が4個所認められた。災害発生当日は、気温が27℃でかなり蒸し暑く、朝からの作業で被災者の作業服は発汗によりかなり湿った状態であった。被災者は在職1年で、電気工事士の資格は持っていなかった。
原因
1.停電をしないで活線のまま作業をしたこと。
2.活線作業に伴う危険性について事前に検討を行わなかったこと。また、作業手順を定めないまま作業に着手したこと。
3.活線作業を行うにもかかわらず、絶縁用保護具を使用せずに素手のまま作業をしたこと。
4.ペンチの絶縁被覆が損傷しており、絶縁性能について点検がなされていなかったこと。
5.夏場の作業で作業服が汗で湿り、接触抵抗が低下していたこと。
6.作業者に感電の危険性について十分理解させていなかったこと。
対策
1.電気工事は可能な限り停電して行う。
2.活線作業を行う際は、あらかじめ危険性を検討のうえ作業手順書を作成しておく。また万一に備え、単独作業を避け、作業者全員に救急処置の訓練をしておく。
3.活線作業において、活線作業用器具を用いる場合であっても電気用ゴム手袋等の絶縁用保護具を併用する。また、接近して感電する恐れのある充電部分には絶縁シートを装着する。
4.活線作業用器具、絶縁用保護具等は定期的に絶縁性能を検査し、必ず使用前点険を行う。
5.発汗、雨などにより身体が濡れると身体や衣服の抵抗が著しく低下するため、夏季においては低圧電気による感電死亡災害が多発する傾向にあるので、普段にも増して絶縁用保護具の着用を徹底させる。また、このような電気の特性および危険性ならびに安全対策について、作業者に十分教育を行う。
自然災害時の感電事故事例(損傷した引き込み線テーピング中に感電死)
事例3つ目は、台風の被害復旧作業中の感電事故です。
地震、台風、豪雨などの自然災害の影響を受けた年は事故件数が増加します。
近年では、東日本大震災があった平成22年度や新潟・福島豪雨のあった平成23年度などは事故件数が増加しました。
概要
木造2階建て家屋の台風被害復旧工事において、2階のテラス屋根上で引込み線の絶縁被覆損傷箇所をビニールテープでテーピングしていたところ、感電した。
※ この作業員は木造家屋の建築工事会社の社員であり、電気工事士ではありません。
詳細
引き込み線は、雨樋の下の軒先に取り付けられた碍子まで3芯ケーブルにより電柱から引き込まれ、ガイシのところで2芯ケーブル(単相2線式100V)および3芯ケーブル(単相3線式100Vおよび200V)に分岐して家屋内に配線されていた。この分岐箇所はビニールテープでテーピングされていた。被災者は、前日からの雨樋の取付け作業の続きを開始して雨樋を取り付けようとしたところ、引き込み線の分岐点の分岐後の3芯ケーブルの芯線のテーピング箇所が破損しているのを見つけた。そこで、被災者は新しいビニールテープで破損箇所をテーピングすることにした。しばらくして、同僚が被災者の声が聞こえないので不審に思い、テラス屋根上を見たところ、被災者が倒れているのを発見した。
原因
1.単相3線式の3本の配線の被膜は、いずれも風化して芯線が露出した状態であったこと。
2 .活線作業用の絶縁用保護具を装着することなく、活線作業を行ったこと。
3.テーピングする箇所が軒下であったため、無理な作業姿勢をとらざるをえなかったこと
4.電気工事の知識経験がないのに、引き込み線を補修する作業を行ったこと。
対策
1.電路を補修する作業を行うときは、電路を停電にしてから行うこと。
2.止むを得ず活線作業を行う場合は、絶縁用保護具を使用させること
3.引き込み線の補修は、電力会社に通報し、その対応を相談すること。
4.引き込み線の補修は、電気工事を専門とする者など電気工事に関する知識経験を有する者に行わせること。
感電事故の防止策
感電事故の対策は、従業員への安全教育が第一です。
知っておきたい感電事故の防止策についてまとめました。
作業中の感電対策の基本を知る
作業中において、感電事故を防止する際の基本の考え方は、以下の2点です。
・充電部を露出させないこと
・むやみに露出した充電部に近づかないこと
以下で、作業中における感電事故防止のコツについても解説していきます。
充電部を露出させないこと
安全覆いを取付け、分電盤を施錠し、故障個所(不具合)があれば、速やかに改修します。
漏電遮断器の取付け
漏電遮断器を取付けた箇所より先の電気機器や配線に、絶縁の低下、損傷等により漏電が発生した場合、速やかに電気の流れを止め、感電災害を未然に防ぎます。また、労働安全衛生規則第333条により、水気や湿気がある場所、移動式の電動工具、屋外のコンセント等には漏電遮断器の設置が義務付けられています。
接地工事
一般的に「アース(earth:大地)」と呼ばれています。アースを行うことにより、漏電した場合でも、漏れた電流の大半はアース線を通じ地中に流れます。万一、人体が漏電個所に接触してしまっても、人体の電気抵抗はアースよりも大きいため、アースによる電流の地中への流出により、電流による人体への影響(電気ショック)を緩和することができます。また、大地の電位は非常に安定しているため、電路(電気機器や屋内配線)と大地を接続することにより、電位を安定させることができます。
二重絶縁構造の電気機器の使用
二重絶縁構造の電気機器には「二重絶縁マーク」が表示されています。このマークが表示されている製品は、電気用品安全法に基づく技術上の基準に適合、または準じて(電気用品安全法適用外の製品)製造されています。なお、このマークが表示されていない製品は、労働安全衛生規則等の規定に基づき、漏電遮断器を取付け、アースを行ったうえで使用する必要があります。
絶縁用保護具、防護具の使用
労働安全衛生規則「第二編 安全基準 第5章 電気による危険の防止 第4節 活線作業及び活線近接作業」において、当該作業を行う場合、事業者は、絶縁用保護具、防護具を作業者に使用させ、作業者はそれを使用しなければならないように義務付けられています。
なお、当該作業は「停電作業」を基本とするため、停電作業を行う場合は、停電させた電路へ、不意に通電してしまう危険を防止するため、「停電作業中、電源スイッチを施錠すること」、「停電作業中である旨わかり易く表示すること」、「誤通電を防止するため、短絡接地器具を用い、アースを確実に行うこと」等が必要です。
情報出典:厚生労働省 職場の安全サイト
過去の事故事例を社内で共有する
感電事故を防止するには、従業員の安全意識を向上させることも大切です。
安全意識の向上には、自社と近しい業務内容の企業で発生した感電事故事例を知り、事故の発生しやすい状況や対策について話し合うことが効果的です。
厚生労働省の職場の安全サイト 労働災害事例検索のページでは、業種やキーワードから労災事例を検索することが可能です。
上記サイトを活用し、発生リスクのある感電事故について、事前に共有しておきましょう。
災害発生後の対応を共有する
感電事故は、未然に防ぐことが第一ですが、万が一事故が発生してしまった際にどのように対応するか訓練をしておくことも大切です。
新人が現場に入る前や、季節や年度の変わり目等、節目節目で救急訓練を実施しておきたいところです。
まとめ
電気をあつかう仕事は、常に命の危険と隣りあわせです。
電気工事会社の一員である以上、「注意をしすぎる」ということはありません。過去の感電事故事例から再発防止策を学び、自社の事故防止対策にご活用ください。
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