建退共とは建設業界の退職金共済
「建設業退職金共済制度」をご存じでしょうか。
「建退共(けんたいきょう)」とも呼ばれるこの制度は、一言でいうと建設業で働く人のために国が作った退職金共済制度。建設業界で働く方ならだれでも加入することができます。
この記事では、
・建退共ってどんな制度?
・建退共に加入しているとどんなメリットがあるの?
・建退共に加入するとお金はいくらかかるの?
など、建退共の仕組みやメリットをわかりやすく解説していきます。
【図でわかる】建退共(建設業退職金共済制度)の仕組みとは
建設業界で働く会社員が、建退共(建設業退職金共済制度)に加入したときのイメージをわかりやすく図で表しました。
会社員の場合は、本人が直接建退共と契約するのではなく、雇用している会社の事業主が建退共と契約を結びます。会社は、建退共に加入する社員分の掛け金を払います。
会社経由で建退共に加入していた労働者は、建設業界で働くのを辞めた際に掛け金に応じた退職金を受け取ることができます。
退職後のお金の受け取りは、建退共→労働者となるので、元々働いていた会社は退職金の支給に関して関わることはありません。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入できる人・できない人
基本的に、建設業界で働く人であればほとんどの人が建退共(建設業退職金共済制度)に加入できますが、一部条件に該当する場合、加入ができないこともあります。
◆ 建退共に加入できる人
・建設業であれば業種は問われません。電気工事業、土木工事業などすべての業種で加入できます
・国籍による制限はありません。外国人の方も加入できます
・職人だけでなく、現場で働く事務員の方なども加入できます
・会社員だけでなく一人親方も加入ができます(任意組合への加入が必要)
◆ 建退共に加入できない人
以下の条件に当てはまる場合は建退共への加入ができません。
・役員報酬を受けている場合
・現場から離れた本社などに勤務する、事務を専門に行う社員の場合
・中小企業退職金共済、清酒製造業退職金共済、林業退職金共済制度に加入している場合
退建共(建設業退職金共済)への加入方法
建退共(建設業退職金共済制度)に加入したい場合、手続きは事業主が行います。
【ステップ①】書類の作成・提出
「建設業退職金共済契約申込書」(様式第001号)および「建設業退職金共済手帳申込書」(様式第002号)に必要事項を記入して、各都道府県にある建設業退職金共済支部に申し込みを行ってください。
※都道府県ごとの支部所在地はこちら。
【ステップ②】契約の締結
契約申込み後、退職金共済契約が結ばれます。
「共済契約者証」と新たに被共済者となる労働者に対して「退職金共済手帳(掛金助成)」が交付されます。
【ステップ③】建退共の運用
事業主(建設事業者)は、加入者分の掛け金を共済証紙を購入し、納めます。
購入した共済証紙を労働者の雇用日数分、共済手帳に貼る(電子申請も可能)ことで積立を行います。
不明点がある場合は、建退共への加入や相談を行いたい方向けの問い合わせ専用窓口が設けられています。こちらから問い合わせ先を確認し、相談しましょう。
建退共(建設業退職金共済制度)の掛け金額と扱い
建退共(建設業退職金共済制度)の掛け金は、2023年12月現在、加入者一人あたり1日320円です。
この掛け金は、建退共と契約している事業主が加入している社員分をまとめて支払いますので、対象の社員が10人いれば、かかる金額は1日あたり3,200円となります。
建退共に加入すると加入者分の共済手帳が発行され、共済手帳に掛け金分の共済証紙を購入して張り付けることで、掛け金を払ったことを証明します。また、2020年10月より、建退共の掛金納付方式に従来の「証紙貼付方式」に加え、「電子申請」が追加されました。
掛け金は会社(事業主)が支払うことになりますが、損金処理を行うことができますので、全額免税となります。 ※ 個人事業主の場合は必要経費扱い
建退共(建設業退職金共済制度)の退職金受給には24ヶ月働くことが必要
労働者は、建退共(建設業退職金共済制度)と契約を結んでいる会社で24ヶ月以上(死亡の場合12ヶ月以上)働き、掛け金を納めていれば退職金の受給対象となります。
働いた年数が長くなるほど受け取る退職金の額も大きくなります。
また、建退共の特徴的なポイントは、建退共に加入している会社間の転職であれば働いた年数は通算でカウントされるということです。
例1:電気工事士の田中さんが、A電気工事(建退共加入)で1年働き、その後B電業(建退共加入)に転職して5年働いた
→ A電気工事1年+B電業5年の6年間、建退共に加入していたとみなされる。
例2:電気工事士の佐藤さんが、A電気工事(建退共加入)で1年働き、その後C電社(建退共加入なし)に転職して5年働いた
→ A電気工事1年間のみ、建退共に加入していたとみなされる。
建退共(建設業退職金共済制度)でもらえる退職金の早見表
年数(月数) | 退職金額(単位:円) |
2年(24月) | 151,200 |
3年(36月) | 226,800 |
4年(48月) | 306,180 |
5年(60月) | 402,570 |
6年(72月) | 518,490 |
7年(84月) | 639,450 |
8年(96月) | 760,410 |
9年(108月) | 890,190 |
10年(120月) | 1,028,790 |
15年(180月) | 1,794,870 |
20年(240月) | 2,656,710 |
25年(300月) | 3,697,470 |
30年(360月) | 4,958,730 |
35年(420月) | 6,500,970 |
37年(444月) | 7,220,430 |
建退共(建設業退職金共済制度)でもらえる退職金の額は、月額いくらの掛金を何ヶ月納めたかによって計算されます。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入している会社で、掛け金が日額300円のころから働いていた方の場合もらえる金額の目安は表の通りとなります。
建退共(建設業退職金共済制度)の詳細な計算方法
建退共(建設業退職金共済制度)に加入して掛け金を納めていった場合、退職金がいくらもらえるかは公式ホームページから試算することが可能です。
納めた掛け金×日数を入力すれば、前項でご紹介した早見表以上に詳細な退職金の額を試算できますので、ぜひご利用ください。
建退共(建設業退職金共済制度)を受給するための手続きと必要な証明
建退共(建設業退職金共済制度)に加入していた人が退職金を請求する際は、労働者本人が建退共に対して直接申請手続きを行う必要があります。
退職したら自動的に振り込まれるわけではないので、きちんと頭に入れておきましょう。
申請手続きの具体的な方法は、以下の手順となります。
・「退職金請求書」という書類に必要事項を記入
・証明欄に請求事由に該当する必要な証明(下図参照)を受ける
・持っている共済手帳と住民票を添えて、都道府県ごとの建設業退職共済事業支部*に提出
なお、請求時には退職前に働いていた会社の証明が必要になる場合があるので、退職して会社に行かなくなる前に相談をしておきたいところです。
*自分の県の支部がどこにあるか確認したい方は こちら
◆ 退職金の受け取りが可能となる理由と必要な証明
退職金を請求する理由 | 申請手続きに必要となる証明 |
独立して仕事をはじめた | 最後の事業主又は事業主団体の証明 |
無職になって今後どこにも就職しなくなった | 最後の事業主又は事業主団体の証明 |
建設関係以外の事業主に雇われた | 新しい事業主の証明 |
建設関係の事業所の社員や職員になった | 現在の事業主の証明 |
けが又は病気のため仕事ができなくなった | 最後の事業主の証明又は医師の診断書 |
満歳以上になった | 請求するときの事業主の証明又は住民票 |
本人が死亡した | 戸籍謄(抄)本及び被共済者と請求人の順位等を証明するもの |
退職金は口座振込みまたは支払通知書で受け取り
建退共(建設業退職金共済制度)から受け取る退職金は、「口座振込み」または「支払通知書」で受けとることが可能です。
口座振込みで受け取りたい場合は、金融機関の預金口座を指定すれば振り込んでもらうことができます。
また支払通知書で受け取る場合は、機構から支払通知書が送られますので、指定金融機関に提出して現金で受け取ることができます。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入するメリットとデメリット
ここからは、建退共(建設業退職金共済制度)に加入することによるメリット・デメリットをご紹介します。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入するメリット
労働者にとって、建退共(建設業退職金共済)に加入するメリットは、建設業をやめた時にお金がもらえることです。
事業主にとって、建退共(建設業退職金共済)に加入するメリットは、福利厚生が充実するため就職先・転職先に選んでもらいやすくなることです。
また注目なのは、建退共に入っていると公共工事の受注がしやすくなります。公共工事の入札時に行われる経営事項審査の加点要素として「建退共に加入しているかどうか」の項目があるため、公共工事に携わりたいと考えている事業主にとってはその点もメリットとなります。
建退共(建設業退職金共済制度)に加入するデメリット
労働者にとっては、建退共(建設業退職金共済)に加入するデメリットはほとんどありません。
掛け金は事業主が納めるため、出費が増えることもありませんし、基本的にはリスクよりもリターンが大きい制度です。
しいて言うのであれば、共済証紙の貼り付けや手帳の保管など、管理にやや手間がかかる程度のデメリットはあります。
事業主にとって、建退共(建設業退職金共済)に加入するデメリットは、加入者分の掛け金がかかることです。
しかし、「建退共に加入するメリット」でもあげたように、就職先・転職先に選んでもらいやすくなることや、公共工事が受注しやすくなるなどのメリットも多くあります。
メリットとデメリットを比較・検討して導入を行う必要があります。
建退共(建設業退職金共済制度)のQ&A
ここからは、建退共(建設業退職金共済)のよくある疑問について一問一答形式で簡潔にお答えしていきます。
建退共(建設業退職金共済制度)加入者が死亡した場合どうなる?
建退共(建設業退職金共済制度)に加入していた人が死亡した場合、退職金は本人に代わって遺族が受け取ることができます。
受け取りには、遺族の順位によって異なった書類の提出が必要です。
その場合は遺族が 勤労者退職金共済機構または建設業退職金共済事業本部に問い合わせを行うことになります。
家族のいる方は、もしもの時のために建退共に加入していることと、自分が死亡した場合の申請手続きの方法や問い合わせ先を家族に伝えておくと安心です。
建退共(建設業退職金共済制度)の掛け金は誰が払うの?
建退共の掛け金は、事業主が支払います。つまり、会社員の場合は自分で共済証紙を購入することはなく、会社が購入した共済証紙を受け取り、貼り付けの作業のみ行うことになります*。
*会社が共済手帳を加入者分まとめて管理し貼り付け作業まで行う場合もあります。
建退共(建設業退職金共済制度)の証紙ってなに?
証紙は、掛け金を納めたことを証明するためもので、切手のような見た目をしています。
建退共の共済証紙には赤色(中小企業用)と青色(大手企業用)の二つの種類があり、どちらも1日券と10日券とがあります。
1日券は320円、10日券は3,200円です。
建退共(建設業退職金共済制度)は社長(事業主)でも入れる?
複数人従業員のいる企業の社長(事業主)は建退共に入ることはできません。
他に、役員報酬をもらっている社員も加入の対象外となります。
ただし、個人事業主の場合は加入できます。
建退共(建設業退職金共済制度)は途中で退職金をもらうことができる?
退職金を受給できるのは加入者が建設業を辞めたときに限りますので、建設業界で働きながら退職金をもらうことはできません。
建退共(建設業退職金共済制度)についてのまとめ
今回は、建退共とはどんな制度なのかを解説しました。
社員の確保・定着のために重要な福利厚生。建退共にまだ加入していない事業主の方は、加入をご検討してみてはいかがでしょうか?
この記事が、建退共について知りたい方に少しでもお役にたてば幸いです!
◆ 会社の福利厚生についてご検討の方はこちらの記事もご覧ください!
コメント
「建退共に入るとかかる金額」掛け金は、加入者一人当たり1日350円と記載されていますが、共済証紙は、元請が購入し、貼付してくれます。共済手帳発行にお金がかかるのですか?
掛け金の項目で記載している310円は、共済証紙の金額です。
共済証紙の購入にかかる費用が一人当たり1日分310円となります。
元請け様が共済証紙の貼り付けを行われている場合、元請け様の方ですでに証紙の購入費用を支払っているのかと思いますが、個別のご事情について弊社ですべてを把握できかねますので、お手数ですが元請け様または勤労者退職金共済機構にお問い合わせいただけますと幸いです。
参考:http://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/tetsuzuki/tetsuzuki02.html
お問い合わせ窓口:http://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/busyo/index.html
元受け会社も下請け会社も会社の退職金制度の加入者の場合は建退共証紙は必要でしょうか
大変恐れ入りますが、弊社は運営元でないため個別のご事情ついて正式な回答ができかねます。
お手数ですが、建退共の運営元である勤労者退職金共済機構にお問い合わせいただけますと幸いです。
お問い合わせ窓口:http://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/busyo/index.html
建設会社の営業職です。
基本営業職は建退共の対象にならないことは理解できましたが、仮に営業職の私が、数ヶ月の期間とか現場に出向(手伝い)に行くとなった場合、建退共の対象になるのでしょうか?
>「建設業を営む事業主に雇用されている労働者で、建設業の現場で働いている者」は全て建退共制度の被共済者となりうるものとしています。
https://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/qa/qa1-2.html
上記の内容に照らし合わせれば、建設業の現場で働いている期間は加入対象となるように読み取れますが、
期間限定等、個別のご事情がある場合弊社で正式な回答ができかねます。
お手数ですが、建退共の運営元である勤労者退職金共済機構までお問い合わせいただけますと幸いです。
お問い合わせ窓口:http://www.kentaikyo.taisyokukin.go.jp/busyo/index.html