社労士へのお悩み相談
会社を運営していると、様々な悩みに直面することがあります。そこで、中小企業、特に建設業で働く経営者様、労務担当者様向けに、気になるギモンを解決するための社労士さんへの相談コーナーを開設しました。
今回は第二回目。事務所から現場への移動時間を勤務時間に含めるのかどうか、社内規定や求人票を作る際に迷った経験のある方もいるのではないでしょうか。今回も、 社会保険労務士法人エンチカの代表を務める、波多野様に解説していただきます。
【お悩み】現場への移動時間と労働時間の関係について
求人を出す際の労働時間表記について迷っています。当社は現場作業が9時からですが、一度自家用車で事務所に集合した後、社用車で現場に向かいます。現場作業前、会社から現場への移動の時間については勤務時間と考えるべきなのでしょうか。(40代・電気工事会社総務)
現場作業前の準備・移動時間のあつかい
―(波多野)現場に向かうのに社用車を利用しているからという理由だけでは、勤務時間とする必要はないでしょう。この件では、現場作業前に仕事の準備行為があるかどうかがポイントと考えます。
厚生労働省の 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)によると、労働時間の定義はこう定められています。“労働時間に該当するか否かは、労働契約、就業規則、労働協約等の定め のいかんによらず、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであること。また、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるかどうかは、労働者の行為が使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされていた等の状況の有無等から、個別具体的に判断されるものであること。”
個別の事由はあれど、社用車を運転するという行為のみの場合は、この“客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれている”に該当する可能性は低いと言えます。
しかし、事務所に集合した際に準備作業などがあった場合は扱いが変わります。
現場移動前に準備作業があった場合
―(編集部)事務所に集合した後、現場作業の準備をした上で現場に向かう場合、先ほどと考え方はどのように変わるのでしょうか。
―(波多野)前項で紹介したガイドラインでは、以下のような状況の場合を労働時間に含めると認定しています。
ア:使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
イ:使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
よって、現場作業の前に業務に必要な準備行為があった場合は、事務所に集合して準備をした時間やその後の現場への移動時間も労働時間に含めるべきと考えるのが妥当です。
現場へ直行/直帰の場合
―(編集部)自宅から現場に直行/直帰という職人さんもいらっしゃいます。直行直帰の場合、社員の自宅から現場への移動時間は勤務時間か通勤時間、どちらとみなすべきでしょうか。
―(波多野)指揮監督下に無い状態、つまり、自由が約束されているようであれば通勤時間として考えることができます。しかし、労働契約等で定めた所定労働時間中の使用者の指揮命令によって移動が命じられている場合は労働時間の要素が強くなると考えます。
求人票のあつかい
―(編集部)建設業界に従事している方からは、「9時~17時が勤務時間と求人票に書いている会社でも、実際には事務所に7時に集合し、その日の工事の準備を行った後に現場へ移動し、9時から作業を開始している」というような話をよく聞きます。この場合、労働時間は事務所へ行った7時からとみなし、9時までの2時間については早出と見るのが本来正しいのでしょうか。
―(波多野)上記の場合、準備するために事務所へ集合した時点で「使用者の指揮命令下に置かれている」状態であり、労働時間とみなされる可能性は高いです。また、準備作業を行っている時間は当然、労働時間になります。
したがって、この例の場合は2時間分を早出と見たほうがトラブルは少ないと考えます。
―(編集部)集合時刻=労働開始時間とあつかわれるとなると、求人票に9時~17時と現場作業の時間を書いて、前後に発生する事務所での準備や片付け、清掃などの作業時間を含めないことは違法ということでしょうか。
―(波多野)集合時刻については個別の判断が必要となりますが、少なくとも準備時間は労働時間としてカウントしなければ違法となります。
7時に集合し、ほぼ集合と同時に準備作業を開始するのであれば、求人票の作業開始時刻は7時とするべきでしょう。その際の所定労働時間は7時から原則休憩除く8時間以内におさめる必要があります。または、7時~9時の2時間分を早出の労働時間として加算した給与を支給するべきです。
今回のまとめ
今回のお悩みであった「現場への移動は勤務時間に入るのか」について、回答をまとめました。
・自宅→事務所→現場と移動した場合、所定労働時間に事務所から社用車で現場へ移動したとしても、準備作業などを行わなければ勤務時間には当たらないと考えるのが妥当
・現場に行く前に、事務所で工事の準備や清掃などを行った場合はその時間から労働時間とみなされ、無視している場合は違法となる
・直行直帰の場合、所定労働時間外の現場への移動時間は労働時間とはみなさず通勤時間と考えることができる。
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監修協力
【プロフィール】 社会保険労務士法人エンチカ 波多野代表
株式会社フルキャストホールディングスに入社し、社会保険労務士資格取得後、人事領域の業務に従事。責任者として人事制度構築、労働組合対応、リストラクチャリングなど人事領域の幅広い業務を担当し、2013年に社会保険労務士として独立。4年間の個人事業主を経て、社会保険労務士法人エンチカを創業。
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