【社労士にきく】テレワークによる労務管理のお悩みを解決!交通費や通信費はどうするべき?(労務相談vol.6)

会社づくり

社労士へのお悩み相談

会社を運営していると、様々な悩みに直面することがあります。そこで、中小企業、特に建設業で働く経営者様、労務担当者様向けに、気になるギモンを解決するための社労士さんへの相談コーナーを開設しました。

今回は第六回目。建設業のテレワーク問題についてです。

度重なる自粛要請の連続で、「そろそろウチもテレワークを制度として根付かせたい」とお考えの方や、「あまりルールを明確にせず社員にテレワークをさせてしまっている」という方もいらっしゃると思います。

今更聞けないテレワークのルールについて知っておきましょう。

【お悩み】テレワーク、手当や労災適用のルールについて

新型コロナの影響を受け、緊急事態宣言中に一部の事務員をテレワークにし、技能職(職人)には現場から家への直行直帰をしてもらい事務所に寄らないようにしてもらうなどの対応をしました。一時的な措置のつもりでしたが、なかなか情勢が変わらず、そろそろテレワーク用のルールをきちんと設定しなければならないと感じており、いくつか質問させていただきます。

①テレワークの場合、今まで支給していた通勤費は減らしてよいのでしょうか?

②また、インターネットを自宅で利用してパソコン作業をする際の通信費は会社で支払わなくてはならないのでしょうか。

③社員が自宅から現場の移動中に事故にあった場合、労災の保険が適用されるのかも知りたいです。

④最後に、テレワークを継続するようであれば給料についても見直したいと考えています。経営者側の気持ちとして、会社に出勤してもらっている労力を考え給与を決めていたため、出勤時間が減るのであれば少し給料を下げたいと考えていますが、可能でしょうか。

質問が多いですが、よろしくお願いします(50代・電気工事会社代表)

テレワークで通勤費は減らせる?

―(編集部)テレワークの場合、今まで支給してきた通勤費を減らしていいのか?という質問がありましたが、こちらはいかがでしょうか。

―(波多野)例えば車通勤の社員がいたとして、労働条件として通勤手当を支給している場合、その手当をなくすことは不利益変更となるため、原則としてはできません。

しかし、事実として通勤していないのであれば通勤手当が通勤にかかる費用の補填と考えると、必ずしも不利益とは言い切れないとも思います。

どうしても通勤手当をなくしたいということであれば、変更に伴い、社員本人の同意は必要でしょう。

通勤費を減らすとなった場合は、労働契約法という法律に従って労働条件を変更する必要があります。

―では、電車通勤の社員の場合はどうでしょう?例えば電車通勤の社員をテレワークにする場合、通勤費は基本的にゼロにして、どうしても出社する必要がある日のみ通勤にかかった費用を実費支給という形に変更していいのでしょうか。

―実態として通勤しないのであれば、通勤した場合のみに実費支給とすることは可能だと思います。

対象となる社員と相談をし、社員にとって不利益な変更とならないようにしたいです。

―「必要があって出勤した分のみ実費支給」というルールについて、電車だとかかった費用の計算が簡単ですが、車通勤で1日のみ出勤したような場合はどう計算すればのでしょうか。

ガソリン代の1日あたりの単価を決定して支給するという方法はあるかと思います。

なお、マイカー通勤等の通勤手当についても非課税枠があり、超過した場合労働者に所得税の控除をしなければならないので、金額には十分注意したいところです。

出典:国税庁

通信費は会社負担にすべきか

―(編集部)社員の家のインターネット回線を使ってパソコン作業をしてもらう場合、会社が通信費を負担する必要があるのでしょうか。

―(波多野)必ず会社が負担しなければならないという決まりはありません。例えば、自分が使うボールペンは自分で買うこともありますし、会社が支給する場合もあるでしょう。インターネット回線についても、そのような考え方と同様です。

しかし実際には、通信費用を負担している会社もあります。また、最近では在宅勤務によって水道光熱費がこれまでよりもかかっているということもあり、月3,000円〜月5,000円程度を手当として支給する会社もあります。会社の判断で手当を支給することは良いと思います。

通信費を支払う法的な義務はないが、会社の判断によって負担をしている会社もあるということですね。これは、もともと自宅でインターネット回線を契約していた場合も、テレワークによって自宅に回線を新規で契約した場合も同様に「通信費用の負担の義務はなく、支給は会社判断」と考えていいのでしょうか。

―そのとおりです。

労災保険の範囲

―(編集部)技能職(職人)の社員の場合、自宅から直接現場に行ってもらうこともあります。社員の自宅から現場に直接向かう場合に事故が起こっても労災保険の適用は可能でしょうか。

―(波多野)労災のなかでも、通勤災害に該当する可能性はあります。通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。

この場合の「通勤」とは、以下の3つが該当します。

(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動

家から現場へ直接移動するのは、(1)に該当します。

しかし、移動の経路を逸脱した場合や、移動を中断した場合、その間およびその後の移動は「通勤」とはなりません。

例えば飲みに行ったり、映画を見に行ったりと、通勤に関係ないことをして事故を起こした場合は「通勤」とみなされず労災が適用されません

ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。

合理的なルートを通っている場合、社員の自宅から現場への移動中に起こった事故は通勤災害に認定される可能性が高いと言えます。

「テレワークだから給料を下げる」は可能か

―(編集部)相談者から、「経営者側の気持ちとして、会社に出勤してもらっている労力を考え給与を決めていたため、出勤時間が減るのであれば少し給料を下げたいのだが、許されるか。」という相談もありました。「テレワークだから給料を下げる」という考え方についてはいかがでしょうか。

―(波多野)原則として許されません。

テレワークは、出勤時間が減ったとしても、自宅での労働を認めている以上、実質的な「労働時間」が減っていることにはなりません

賃金は労働に対する対価であって、会社に出勤することに対する対価ではないので、出勤時間が減少したことを理由に給料を下げるのは単なる減給となります。

監修協力

【プロフィール】 社会保険労務士法人エンチカ 波多野代表
株式会社フルキャストホールディングスに入社し、社会保険労務士資格取得後、人事領域の業務に従事。責任者として人事制度構築、労働組合対応、リストラクチャリングなど人事領域の幅広い業務を担当し、2013年に社会保険労務士として独立。4年間の個人事業主を経て、社会保険労務士法人エンチカを創業。

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