建設業者にとって身近なトラブルである腰痛。対策はしているでしょうか。
この記事では、建設業者向けに
・ストレッチをより効果的にするコツ などについてご紹介します。
建設業の腰痛(労災認定)は年間222件で熱中症以上
厚生労働省の業務上疾病発生状況等調査(令和2年)によると、2020年に腰痛(災害性腰痛)*を起こした建設業者は222名です。
同年の熱中症は215名のため、建設業者にとって腰痛は熱中症と同等かそれ以上に発症リスクの高い病気と言えます。
ここで件数が報告されている腰痛は労災として認められたもののみであり、建設業者が労災保険以外で病院を受診したものや、慢性的に抱えている腰痛は上記の数には含まれていません。腰痛に悩む建設業者は、実際にはこのデータを大きく上回る人数がいるものと思われます。
*災害性腰痛に認定される2要件:①腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること。②腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること。
建設業者の腰痛発生要因4つと具体的な動作
厚生労働省が定めている腰痛の発生要因は、以下の4つです。建設業者が該当しやすい具体的なシーンについても記載します。
① 腰部に動的あるいは静的に過度の負担を加える「動作要因」
建設業界で該当する主なシーン:重量物の持上げや運搬/長時間の立ちっぱなし/前屈(おじぎ姿勢)、ひねり及び後屈ねん転(うっちゃり姿勢)等の不自然な作業姿勢/物を急に持ち上げるなど急激または不用意な動作
② 腰部への振動、温度、転倒の原因となる床・階段の状態等の「環境要因」
建設業界で該当する主なシーン:作業車・車両系建設機械による腰部・全身への振動/寒冷な環境または多湿な環境/滑りやすい床や段差/暗い場所での作業/ 狭い作業空間または乱雑な作業空間/作業台等の不適切な配置/休憩や仮眠が取りにくい環境や過剰労働、教育・訓練を十分に受けていないこと(④にも該当)
③ 年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、骨粗しょう症等の「既往症又は基礎疾患の有無等の個人的要因」
建設業界で該当する主なシーン:年齢及び性(一般的には高齢者や女性の作業負担が重い傾向)/握力、腹筋力、バランス能力/椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、圧迫骨折等の腰痛の既往症、血管性疾患、婦人科疾患、泌尿器系疾患等の基礎疾患があること/体格と作業台の高さ・作業空間が適合していないこと
④ 職場の対人ストレス等に代表される「心理・社会的要因」
建設業界で該当する主なシーン:仕事への満足感や働きがいが得にくい/上司や同僚からの支援不足/職場での対人トラブル/労働者の能力と適性に応じた職務内容になっていない/過度な長時間労働、過重な疲労、心理的負荷、責任等が生じているなど
建設業向け腰痛予防対策
腰痛は、発生傾向と対策を知っておくことで発生リスクを減らすことが可能です。建設業従事者に取り入れやすい腰痛の予防対策をご紹介していきます。
① 動作要因の腰痛対策
自動化・省力化
・作業はできる限り自動化または省力化する。腰部に負担のかかる重量物を取り扱う作業は、負担を減らす台車等の適切な補助機器を利用する
作業姿勢
・前屈、中腰、ひねり、後屈ねん転等の不自然な姿勢は控え、前屈や中腰姿勢は膝を着いた姿勢に置き換え、ひねりや後屈ねんてんは体ごと向きを変え、正面を向いて作業する。また作業時は、作業対象にできるだけ身体を近づけて作業する
・作業台や椅子は適切な高さに調節する。具体的には、立位、椅座位に関わらず、作業台の高さは肘の曲げ角度がおよそ 90 度になる高さとする。また、椅子座面の高さは、足裏全体が着く高さとする
・同一姿勢を長時間取らない
作業動作
・腰部の不意なひねり等の急激な動作を避ける
・持ち上げる、引く、押す等の動作は膝を軽く曲げて呼吸を整え、下腹部に力を入れながら行う
・転倒やすべり等の防止のため足もとや周囲の安全を確認する
その他作業の実施体制
・腰部に負担のかかる作業は無理に1人で作業するのではなく複数人で作業できるようにする
・労働者の健康状態や特性(年齢、性別、体格、体力、等)、技能・経験等を考慮して人員配置を行う
・適宜休憩時間を設け、休憩中は姿勢を変える
・不自然な姿勢を取らざるを得ない作業や反復作業等を行う場合には、他の作業と組み合わせる等により、当該作業ができるだけ連続しないようにする。
・体に適合した作業靴・作業服を着用する
②環境要因の腰痛対策
温度
・低い気温は腰痛の悪化・発生を引き起こすので、作業場内の温度は適切に保つ。低温環境下で作業せざるを得ない場合は、保温のための衣服の着用や暖房設備の設置に配慮する
照明・床・作業空間
・足もとや周囲の安全が確認できるように適切な照度を保つ
・転倒防止のするため、作業床面はできるだけ凹凸がなく、防滑性、弾力性、耐衝撃性及び耐へこみ性に優れたものとすることが望ましい
・雑然とした作業空間、狭い作業空間は、腰痛の発生や症状の悪化につながりやすい。広い作業空間を確保できるよう周囲を整備できる場合は整備する
・機器・設備、荷の配置、作業台や椅子の高さに配慮を行う
③ 既往症又は基礎疾患の有無等の個人的要因の腰痛対策
健康診断
・腰に著しい負担がかかる作業に常時、従事させる場合は、その作業に配置する際に、医師による腰痛の健康診断を実施する。その後は6カ月以内に1回定期的に実施する
・事業者は、腰痛の健康診断の結果について医師から意見を聴取し、労働者の腰痛を予防するため必要があるとされたときは、作業方法等の改善、作業時間の短縮等の措置をとる
・睡眠改善や保温対策、運動習慣の獲得、禁煙、健康的なストレスコントロール等の日常生活における腰痛予防をする
予防体操/腰痛持ちの復職
・適宜、腰痛予防のための体操を実施する
・腰痛は再発する可能性が高い。腰痛による休職者が職場に復帰する場合は、産業医などの意見を聴き、必要な措置をとる
④ 心理・社会的要因の腰痛対策
・事業者は、作業管理、作業環境管理、健康管理、労働衛生教育を的確に組み合わせて総合的に推進していく。また、腰痛で休むことを受け入れる環境づくり、相談窓口の設置など、組織的な取り組みを行う
おすすめ腰痛予防体操
この動画は、厚労省の職場のあんぜんサイトで公開されている~転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」~です。1回4分ほどで実施でき、転倒・腰痛の予防対策となるので導入してみるのもいいでしょう。
作業の合間にできるストレッチ
体操以外にも、作業のスキマ時間でストレッチを行うことも効果的です。
建設業でも応用できるストレッチ方法です。現場の壁や階段を利用して、使った筋肉をゆっくり伸ばすことを意識しましょう。
※ 急性期の腰痛で痛みなどがある場合や回復期で痛みが残る場合には、ストレッチを実施するかどうか医師と相談しましょう
ストレッチを効果的にする7つのポイント
せっかくストレッチを実施するのであれば、より効果的な動きを心がけたいところです。ストレッチを効果的にする動作のポイントは以下の通りです。
① 息を止めずにゆっくりと吐きながら伸ばしていく
② 反動・はずみはつけない
③ 伸ばす筋肉を意識する
④ 張りを感じるが痛みのない程度まで伸ばす
⑤ 20秒から30秒伸ばし続ける
⑥ 筋肉を戻すときはゆっくりとじわじわ戻っていることを意識する
⑦ 一度のストレッチングで1回から3回ほど伸ばす
参考:厚生労働省 職場における腰痛予防対策指針及び解説
建設業者の腰痛は予防対策と悪化防止が大切!
腰痛は再発しやすい病気。建設業界で長く働いていくためにも日々腰痛の予防対策を行い、腰痛の兆候があれば悪化させないよう作業中の動作に気を付けることが非常に重要です。本記事で紹介した作業時の注意点と体操・ストレッチをぜひ覚えていただき、腰痛対策に役立ててください。
参考資料
厚生労働省:業務上疾病発生状況等調査(令和2年)
厚生労働省プレスリリース:職場における腰痛予防の取組を!~19年ぶりに「職場における腰痛予防対策指針」を改訂~
職場のあんぜんサイト:転倒・腰痛防止用視覚教材
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