労災隠しはなぜ起こる?
労働災害(労災)とは、業務中に起きた事故によるケガや病気または障害などのことを言います。
労災が起こった時、企業は所定の手続きを行い、労働基準監督署に報告しなければなりませんが、報告を怠ることを「労災隠し」と言います。
この記事では労災の定義から労災が起きてしまった場合の正しい対処方法、また労災隠しを行った際の罰則について初心者でもわかりやすく解説していきます。
労災に関する法律を知っておきましょう。
【重要】どんな場合が労災?

業務中に起こったケガや死亡事故のほか、業務が原因と考えられる病気*も労災と認められる可能性があります。
また、労災保険の適用範囲は業務中だけではありません。合理的な経路・方法による通勤途中で起きた事故も対象となります。これらは基本かつとても重要な内容ですので、覚えておきましょう。
*業務による過重負荷により、脳や心臓疾患、または精神疾患などが発症することがあります。原因が業務によるものかどうかは、労働時間や勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を鑑みて総合的に判断します。
労災隠しとは?どんな場合に当てはまる?
労災により労働者が死亡又は休業した場合、企業は遅滞なく労働基準監督署へ労働者死傷病報告等を提出する義務があります。提出を行わなかった場合、労災隠しとみなされる可能性があります。厚生労働省のHPによると、労災隠しの定義は以下の通りです。
「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、(1)故意に提出しないこと、(2)虚偽の内容を記載して提出することをいいます。
出典:厚生労働省 労災隠しとは何ですか。
【重要】労災に健康保険は使えない!

事業主だけでなく労働者本人にも覚えておいていただきたいのは、労災事故で病院に行っても健康保険は使えないということです。
被災者は病院での治療が必要な場合、労災であることを伝え、健康保険証を出さずに治療を受けます(医療費の請求は発生しません)。また入院が必要な場合は労災病院への入院・通院を行うことになります。
通常のケガや病気の際には健康保険が適用されますが、労災時に適用されるのは労災保険です。労災保険を申請しなかった場合は一時的に医療費が全額受診者の負担になるので注意が必要です。
【重要】建設現場では元請けの労災保険を適用

建設現場の場合、下請けの作業員が被災した場合でも、労災保険は元請けが申請することになります。そのため、現場でのケガや病気は元請けに速やかに報告することが必須となります。
この仕組みにより元請けとの関係悪化・取引中止を恐れて下請けが労災を元請けに報告しないために労災隠しが起こることがありますが、発覚した際に自社の信用を著しく損なうことになりますのでやめましょう。
労災が起こったらやること・やってはいけないこと
自社の社員が労災に遭った際やるべきことについてまとめました。反対に、やってはいけないことについてもご紹介しています。
労災が起こった際にやること

労災を起こした従業員が所属する企業(建設現場での労災の場合は元請け企業)は、速やかに労災の発生を所轄の労働基準監督署に報告するとともに、労災保険の申請を行います。労災発生後、労働者が1日でも休業する場合には、労働者死傷病報告を作成します。
◆ 労働基準監督署への報告
労働基準監督署へ労働者死傷病報告を提出する際、期限は労災の内容によって異なります。被災者の休業が4日以上になった場合は労働者死傷病報告(様式第23号)を遅滞なく速やかに提出することが求められますが、被災者の休業が4日未満の場合は、四半期分まとめて下記の時期に労働者死傷病報告(様式第24号)を提出します。
・1~3月分 4月末日までに報告
・4~6月分 7月末日までに報告
・7~9月分 10月末日までに報告
・10~12月分 1月末日までに報告
なお、報告書はインターネットでの作成が可能です。
◆ 労災保険の申請
労災保険を申請すると、被災者に療養補償給付や休業補償給付など内容に応じた保険金が支払われます。被災者が死亡した場合は、被災者遺族への遺族補償給付や葬祭料などの支払いが行われます。
労災が起こった際にやってはいけないこと
労災が起こった際にやってはいけないことは、労災を隠そうとすることや、被災者に治療を受けさせないこと、プライべートのケガと偽って健康保険適用で治療を受けさせることなどが挙げられます。
また建設現場での労災の場合、元請けであれば、下請に取引継続を条件に労災を隠すよう促すような行為は許されません。下請けの場合、元請けに報告せず自社で処理しようとするのはやめましょう。
また被災者自身が罪悪感から自社に報告をしないで済まそうとするケースもあるようですが、適切な治療と保険の給付を受けるためにもケガをしたら必ず報告をするようにしてください。
労災隠しの罰則は?

事業者は労災事故が発生した場合、労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出しなければなりません。提出をしなかった場合または虚偽の報告をした場合、50万円以下の罰金が科せられます。(労働安全衛生法第120条)。労災隠しは法律違反。つまり犯罪行為ですので絶対にやめましょう。
また、労災隠しを行った事業場には、次に掲げる事項に留意の上、再発防止の徹底を図るため厳正な措置を講ずることといった通達が厚生労働省より出ています。
①事業場に対して司法処分を含め厳正に対処する
②事業者に出頭を求め、局長または所長から警告を発するとともに、同種事案の再発防止策を講じさせる
③全国的または複数の地域で事業場を展開している企業において労災隠しが行われた場合は、必要に応じて、当該企業の本社等に対して、再発防止のための必要な措置を講ずる
④建設事業無災害表彰を受けた事業場には、無災害表彰を返還させる
⑤労災保険のメリット制の適用を受けている事業場では、メリット収支率の再計算を行い、必要に応じて、還付金の徴収を行うなど適切な保険料を招集する
出典:厚生労働省 平成3年12月5日基発687号 いわゆる労災かくしの排除について
労災が発生した場合、報告や労災保険の申請をするのに手間がかかるのは事実ですが、労災隠しは犯罪行為です。素直に所定手続きを行い、何よりも、災害の原因を分析し、コンプライアンスを意識した再発防止に努めましょう。
補足:労災隠しはなぜバレるのか
被災者と話を合わせておけば、労災を隠してもバレないのではないか?と考える方もいるかもしれません。一般的に労災がバレる経緯としては、労働者本人が労働基準監督署へ相談する場合や、健康保険で治療を受けようとして医師とのやりとりの中で労災であることが判明した場合などがあります。
労災を隠そうとするということはつまり、『業務中のケガだけど自分の責任だから自腹で病院に行きなさい。』とか『当社は労災保険に加入していない』等の虚偽の説明をして自腹で治療を受けさせることにもつながり、社員としては会社への不信感・不安感が募ります。現場を見ていた社員からの不信にもつながり会社や現場の士気も下がります。なかったことにしようとすることは許されません。
労災隠しを起こさないための現場指導
労災隠しを防止するためには、現場からきちんと報告が上がってくるように指導を行うことが非常に大切です。現場で出来る具体例としては、以下のようなことが挙げられます。
①朝礼時に「労災隠しは行わない」ことを確認する
②新規入場者に対して、ケガをした際には、必ず報告することを指導し、それを徹底する
③災害が発生した場合は、速やかに適切な措置を取る。協力会社が自社で処理するよう申し出ても、断る
④作業員が労災事故を報告しやすい雰囲気づくりを行う
⑤作業員に対して労災事故に健康保険は使えないこと等、保険制度の説明を行う
出典:厚生労働省 労災隠しは犯罪です
特に⑤の労災保険の制度については、作業員が知らないまま現場に出ていることも考えられます。通常のケガや病気と同じと捉え、健康保険での治療をすればいいという認識を改められるよう、労災保険の基本知識は作業員全員と共有することが必要です。
労災の報告は必須です
労災が発生した時、企業は労働基準監督署への報告が法律で義務付けられているため、労災隠しは犯罪行為です。
特に構造が複雑な建設現場では、元請けに迷惑をかけたくないなどの理由で労災隠しが発生することがありますが、労災隠しは企業としての社会的信用を失墜させるほか、日々会社のために働く従業員を裏切る行為でもあります。労災隠しは絶対に行わないようにしてください。
労災は起こさないことが何より肝心です。安全には十分配慮し、本日も作業を行ってくださいね。
監修協力

【プロフィール】 社会保険労務士法人エンチカ 波多野代表
株式会社フルキャストホールディングスに入社し、社会保険労務士資格取得後、人事領域の業務に従事。責任者として人事制度構築、労働組合対応、リストラクチャリングなど人事領域の幅広い業務を担当し、2013年に社会保険労務士として独立。4年間の個人事業主を経て、社会保険労務士法人エンチカを創業。
エンチカ様のHPはこちら
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