求人倍率は3倍~10倍!深刻すぎる建設業の人手不足
建設魂でも定期的にお伝えしている建設業の有効求人倍率。ハローワークに求人を出した際の倍率は、電気工事で3倍以上、建設躯体工事では約10倍と、建設業界では絶望的な人手不足が続いています。
このような状況の中で若手職人の採用に成功している企業はどのような戦略をとっているのでしょうか。実際に若手を多く採用している企業にインタビューを行い、若手職人採用成功の秘訣を伺いました。
インタビュー企業プロフィール
山口電気工事株式会社:1961年創業。兵庫県尼崎市に本社を構える電気工事会社。もともとは関西電力から請け負う工事が中心であったが、現在では再生可能エネルギーや電気設備工事分野にも進出。老舗企業ながら若手職人が多数活躍している。
前原(まえはら)さん、佐野さん:山口電気工事の広報担当。採用戦略、ブランディング戦略などを担当。
地方老舗建設業に若手が集まる採用戦略・ブランディング戦略とは
―(編集部)山口電気工事で働く社員さんの年齢について教えてください。
―(前原さん)社員35名の内、35歳未満の社員が12名在籍しています。最近では高校卒業後、18歳で入社してくれる方が多いですね。もちろん、歴史の長い企業なので、若い社員ばかりというわけではなく、定年を超えて働いてくれる方もいます。年齢構成はよいバランスを保てているかと思います。
計算すると、社員の34%が35歳以下ということになります。建設業界の中ではかなり若手比率が高いですね。
そうですね。やはり若手を採用しなければこれから先が厳しくなるだろうということを見越して、山口電気工事では5年前に人事部門の部署を、3年前に広報部門の部署を新設しました。広報部門と人事部門を連携して採用戦略とブランディング戦略を立てたことが、若手採用の成功につながっているという実感があります。
建設業の若手採用成功の秘訣は学校訪問にあり!
―(編集部)若手の採用戦略について、具体的な手法を教えてもらうことはできますか?
―(前原さん)私たちが精力的に取り組んでいるのは、出前授業です。
県内の工業高校を中心にコンタクトを取って、学校で授業をさせてもらうんです。電気科であれば職人を連れていき、実技の授業をしたり、最近はSDGS系の授業も行います。そこで生徒さんや先生を直接接点を持っておくことが後の採用にとても重要になってきます。
出前授業は学校から依頼が来て行うのでしょうか?
いえ、こちらからコンタクトを取っていますよ。最初は何の接点もないので、学校に電話をするところから始めました。アポイントが取れたら会社説明の機会をいただいて、そこから出前授業の提案につなげていきます。今では県内の工業高校を中心に、年に35校ほどを回っています。
ゼロから接点を作るのはすごいですね。
「話を聞いてもらえないのではないか」と思う方もいるかもしれませんが、意外とそんなことはありません。一度授業をすると、次の年に「またお願いします」と学校側から依頼をいただくこともありますし、実績を積み上げていくことが重要ですね。
なぜ、授業が採用につながる?
―(編集部)出前授業が採用にもたらす効果について教えてください。
―(前原さん)まず、現在の新卒採用はとても倍率が高い状況です。100人の生徒に対して求人が2000社来ることもあり、普通に求人を出してもなかなか見てもらえません。そんな時に、授業という形で先生や生徒と接点を持っておくことで、進路に悩んでいる生徒に対し、先生が弊社を勧めてくれたり、生徒が自発的に応募してきてくれたりと、応募の確率を高めることができます。
確かに、一度でも授業で触れ合った企業と、求人で初めて知った企業とでは、生徒の注目度が変わりますよね。
そうですね。就活よりも前に生徒と接点を作っておくことは新卒採用においてとても有効だと考えています。
新卒を獲得するには、学校と親からの信頼が大切!
―(編集部)他に、新卒採用のポイントはありますか?
―(前原さん)10代が就職先を決める際は、親や先生の意見に非常に左右されやすいということを念頭に置いておく必要があります。そのため、先生や、生徒さんのご両親に信頼されることが大切になります。
弊社では信頼を得るための活動の一環として、公的機関と連携した取り組みも行っています。例えば役所が脱炭素系の取り組みを行っていたらそこに参加するなどですね。
後で詳しくお話しますが、弊社はブランディング戦略の一環として社屋をZEB*(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化しています。自社で排出するエネルギーを減らす取り組みをしているので、エネルギーにまつわるイベントにも参加しやすく、そういったイベントで学校や役所とつながりを作ることが新卒の親世代の信頼獲得につながっています。
*エネルギー自立度を極力高め、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指した建築物。くわしくはこちら。
建設業の広報部門はやる気があれば立ち上げられる!
―(編集部)山口電気工事さんの取り組みはとても素晴らしいのですが、「ウチには広報部門を立ち上げる人材や知識がない…」と考える建設会社さんも多いかもしれません。
―(前原さん)確かにそう思う方もいるかもしれません。ですが、目的や、やることさえ決めれば特別な知識がなくても広報部門を立ち上げることは可能だということをぜひ知ってもらいたいです。
現に、私の前職は飲食店の店長で、山口電気工事に入社する前に広報や採用の知識はありませんでした。それでも地道に学校や、役所などへのアポイントを取って、少しずつ山口電気工事を広めるための活動やノウハウが身についていきました。
弊社は、代表が「これからはブランディングしなければ生き残れない」と考え、3年前に広報部門を立ち上げたばかりです。もしも同じように考えている中小規模の建設業者さんがいるのであれば、ぜひ広報部門の立ち上げにチャレンジしてみてほしいと思います。
建設業が社会にとって重要な役割を果たしているということを、業界側が声を上げて発信し、若い世代に伝えていくことが、これからの建設業界にとって大切だと考えています。
ほかにもたくさん!建設業の若手採用・育成のコツ
―(編集部)出前授業のほかにも、なにか採用の戦略はありますか?
―(前原さん)求職者が自社に応募してくれた際、自社のどんなところに興味を持ってくれたのかを把握することは大切だと考えているので、面接に来てくださった方にはアンケートを実施しています。アンケートには「インスタを見ましたか?」「HPを見ましたか?」などの質問項目を設け、求職者が注目している情報元を把握します。弊社の場合、HPの注目度が高いことが分かったので、自社のHPに採用情報を増やすなど、改善を行いました。
若手人材の育成は、採用に力を入れるのみでなく入社後に辞めずに続けてもらうことも大切かと思います。人を辞めさせないコツはありますか?
入社後は、定期的に面談の機会を設けています。そこで日頃感じている不安や不満などがあれば聞き取り、解決につなげます。コミュニケーションの機会を増やすことが大切ですね。
また、職人を含めた各部署はチーム制をとっており、1人のリーダーに対し5人の社員を付けるようにしています。これは、リーダーがきちんと全員に目が届くように上限を設けている形です。
若手をサポートする福利厚生の取り組みはありますか?
若手のモチベーションを高めるため、資格取得支援制度を設けています。資格の取得にかかる費用は、最初の一回に限り会社が全額負担しています。
また高卒で入社してきた社員の場合、運転免許を持っていない方もいるので、運転免許を取得する費用の補助も行っています。
新社屋も武器に、さらなるブランド力強化を!
―(編集部)新しく建てた自社ビルも採用の役に立っているそうですが、詳しくお聞きしたいです。
―(前原さん)ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化した新社屋は、会社のブランディング戦略に大きな影響をもたらしました。ZEBに認定されるには厳しい省エネ基準があるのですが、兵庫県で認定されているビルは現在2棟のみです。環境のことを学ぶ一環として、県内の学生が会社見学に訪れてくれるようになり、延べ200人以上の学生が訪れています。
役所や自治体とのつながりも、ZEBの社屋のおかげで増えました。市役所から依頼を受け、地球温暖化についての話をする機会をいただいたりと、広報活動に協力な武器となっています。
これからの山口電気工事
―(編集部)若手採用に成功し、自社のブランド力も強化されている山口電気工事様。10年後、20年後の展望があれば教えてください。
―(前原さん)大きな目標として掲げているのは、エネルギーという分野において貧困と争いをなくしたいということです。現在、グループ会社をいくつか新設していて、そこで再生可能エネルギーやロボットなど、新しい取り組みを積極的に行っています。新しいエネルギーを創造し、我々のできる範囲で世界に貢献していきたいと考えています。
また、従業員にとって自己実現ができる会社でありたいという理念もあります。「エネルギー」という大枠の中で、グループ会社を今後も展開していき、従業員の「こんなことがやってみたい」という気持ちが実現できる会社を目指したいと考えています。
山口電気工事をご紹介!
1946年創業の当社は、関西電力(株)の指名元請工事業者として長きにわたり変電所などの電力工事に従事してきました。
親族中心の創業から徐々に社員を増やし、現社長の山口が入社した2009年ごろには社員数20名程度になり、2023年9月現在は、同社の社員数は43 名。電力工事部、電設工事部、再生可能エネルギー事業部の3つの部門を持っています。
さらに、山口電気工事(株)を筆頭に、産業機器を中心とした商社である大昭産業(株)、3D事業およびロボティクス事業を行う(株)SpaceGrabの3社を(株)AtomsWorld がグループ会社として束ね、グループ連結では社員数80名。施工、調査、調達のワンストップソリューションを叶える強みを持っています。
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