残業時間の上限規制が2024年4月から開始
「建設業の2024年問題」としても話題に上がる残業時間の上限規制。
2024年4月から、中小建設業者でも原則月45時間、年間360時間を残業時間の上限とする法律が適用されます。
ただし、この上限規制のルールが適用されない場合があり、代表的なのが災害に対応する工事の際です。
災害時の法解釈について、具体的な例とともにわかりやすくまとめました。
◆ 残業時間の上限規制については以下の記事でまとめています!
災害時は残業時間の上限規制が適用外に
災害時、労働基準法では残業時間に関する特例を設けています。その内容を確認しましょう。
【原文と要約】災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働
災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等
第三十三条 災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
e-gov 法令検索 労働基準法 第三十三条より引用
上記は労働基準法第33条の原文です。
要約すると、災害時、臨時で作業等の必要がある場合は原則として定めた原則月45時間、年間360時間のルールを超えて労働させることができるという法律です。
災害時の場合の残業時間の上限は?
災害時は原則月45時間、年間360時間の規制が適用されないものの、いくらでも残業をしていいというわけではありません。
災害時のルールは「特別条項」に定められており、守るべき労働条件は下記の通りです。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
・時間外労働と休⽇労働の合計について、「2か⽉平均」「3か⽉平均」「4か⽉平均」「5か⽉平均」「6か⽉平均」が全て1⽉当たり80時間以内
・ 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度
災害時の法解釈Q&A
災害時のルールが定められている、労働基準法第33条が適用されるか否かについて、Q&Aが設けられています。具体的な事例から法解釈を学びましょう。
災害発生が予想される場合の事前対応は33条の対象?
Q:台風が近づいているような災害の発生が予想される場合であって、自治体等から災害協定等に基づく要請を受けて、当該災害への対応が直ちにできるよう労働者を自宅待機させる場合には、法第 33 条第1項の対象となるのか。
A:自宅待機が労働時間に該当するか否かの判断は個別具体的に行う必要があるが、労働者が権利として労働から離れることを保障されておらず、拘束を伴うものである場合には、当該待機時間は使用者の指揮命令下にあるものとして、労働時間に該当する。
建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A(令和5年 12 月 25 日追補分) より引用
法第 33 条第1項については、「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、(中略)その必要の限度において(中略)労働させることができる」とされており、「避けることのできない事由」については、災害発生が客観的に予見される場合も含まれる。
その上で、例えば、国や地方自治体と締結した災害協定等に基づき、差し迫った災害に備えた自宅待機が要請されているなど、自宅待機が社会通念上、災害への対応に必要不可欠なものであると判断される場合は、法第33 条第1項の対象としうる。
この事例からわかることは、災害後の対応だけでなく災害が予見できる場合の事前対応についても労働時間を通常の上限を超えて延長する労働基準法第33条の適用範囲内とされるケースがあるということです。
ただし、緊急性を伴わない災害予防工事は適用範囲外となるケースもある*のでご注意ください。
*詳細は本記事「災害予防のための工事は33条適用になる?」を参照
災害現場への移動が長距離…移動時間は33条適用になる?
Q:隣県で地震があったことから、被災地の自治体からの要請で、被災地域における災害復旧工事の現場において、重機作業を行うことになった。重機(クレーンなど)のオペレーター(法第 140 条第1項の自動車運転の業務に非該当)が重機を工事現場まで移動させるため、重機で公道を走行していたところ、現場が遠方であることに加え、途中地震に伴う渋滞にも巻き込まれたことから、現場に到着するまでに、1時間の休憩を含めて11 時間を要した。この移動時間について、時間外労働となった時間につき、法第 33条第1項を適用できるか。
A:重機のオペレーターが現場に重機を移動させるために、重機で公道を走行する場合も、当該移動に要する時間は使用者の指示によって行うものであるため労働時間に該当する。
災害その他避けることのできない事由によって発生した対応として、既に締結していた36 協定で協定された限度時間を超えて労働させるなどの臨時の必要があり、人命や公益の確保のために自治体等からの工事への協力要請に応じる場合には、法第 33条第1項の許可基準を満たすことから、被災地の工事現場に向かうまでの労働時間に該当する移動時間についても、当該工事に必要不可欠に付随する業務として、その必要の限度において法第 33 条第1項の対象となる。
災害復旧工事に遠方から赴く場合、知っておきたいのがこの回答です。
まず、このケースでは災害復旧の現場である被災地への移動は労働時間としてカウントされます。現場が遠い場合、残業時間の上限を超えてしまう可能性がありますが、この事例は労働基準法第33条の適用範囲内となるため、月45時間、年間360時間を超えての労働が可能となります。
災害予防のための工事は33条適用になる?
Q:経年劣化した道路などの補修工事には、災害を予防するための工事という性質もあると考えられるところ、こうした工事をはじめとした、災害予防のための工事について、法第 139 条第1項を適用できるか。また、法第 33 条第1項はどうか。
A:(中略)将来発生しうる災害の予防のための工事は、法第33条第1項の対象とはならない。ただし、災害予防のための工事が、そのまま放置すれば直ちに災害が発生する状況下や、災害により社会生活への重大な影響が予測される状況下で臨時的に行われるなど、既に締結された 36 協定で協定された限度時間を超えて労働させるなどの臨時の必要があり、人命または公益を保護するための差し迫った必要がある場合には、法第 33 条第1項の許可基準を満たすことから、その必要の限度において法第 33 条第1項の対象となる。
補修工事など、災害を予防するための工事であっても、緊急性を伴わない場合は33条の適用範囲とはならず、残業時間の上限は通常通りの原則月45時間、年間360時間となります。
ただし、災害予防のための工事が、そのまま放置すれば直ちに災害が発生する状況下や、災害により社会生活への重大な影響が予測される状況下の場合は33条が適用されるため、個別の事象について判断に迷う場合は労働局等への確認が必要となります。
災害時の法解釈を知っておこう
2024年4月の法改正に適応できるよう、社内環境の整備を進めている会社も多いでしょう。
建設業と災害の復興は密接な関係にあります。ぜひ、災害時の特別ルールについても知識を付けておき、有事の際にご活用ください。
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