【社労士監修】1か月単位の変形労働時間制の仕組みは?導入すべき会社も解説!

会社づくり

労働時間は一定でなくてもいい

一般的に、会社では一定の就業時間が決まっています。例えば8時~17時、9時~18時などの8時間勤務は多くの会社が採用している就業時間です。

「1か月単位の変形労働時間制」では、週単位・月単位等で勤務時間を調整できる制度。日によって作業量が違う会社であれば、この制度を採用するとメリットが生まれる場合もあります。

この記事では、「1か月単位の変形労働時間制」の基本的な考え方、ルールの解説、また導入した方がいい会社の特徴についても解説していきます。

1か月単位の変形労働時間制とは?

ますは、1か月単位の変形労働時間制の仕組みを知りましょう。

1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるように、労働日および労働日ごとの労働時間を設定することにより、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる制度です(労働基準法第32条の2)。

出典:厚生労働省

1か月単位の変形労働時間制とは、簡単に言うと、変形期間における労働時間の総枠*を超えなければ、1日の労働時間が8時間を超えてもよく、また8時間以下で自由に設定することもできる勤務体系ということになります。

※労働時間の総枠(そうわく)とは…労働時間として法律で定められた範囲のこと。

1か月の労働時間の総枠

次に1か月単位の変形労働時間制で基準となる、月単位の労働時間の総枠について知りましょう。

1週間の法定労働時間は、建設業では40時間です。1か月単位になると、その月の歴日が何日あるかによって労働時間の総枠が変わります(下図参照)。

【月の歴日数と労働時間の総枠】

月の歴日数28日29日30日31日
労働時間の総枠160.0165.7171.4177.1

このように、月ごとの総枠の範囲内に収まるように労働時間を設定する必要があります。

起算日の設定

1か月単位の変形労働時間制では、変形期間すべての労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定める必要があります。
例えば、「毎月1日を起算日とし、1か⽉を平均して1週間当たり40時間以内とする」というように定めます。なお、変形期間は1か⽉以内の期間に限ります。

労働時間のスケジューリング

この制度で重要なのは、労働時間はあらかじめスケジューリングする必要があるということです。例えば、変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に決めて変形期間の開始前までに公開するというように、あらかじめ発生しそうな労働時間を予測し、スケジュールを組んでおく必要があります。

実際に発生した労働時間を記録していって、上限の労働時間に収まるように調整しながら働くというようなやり方はできないので、注意が必要です。

下図は、1か月単位の変形労働時間制のモデルです。

※ グラフ説明:スケジューリングした労働時間がグラフの青の部分、所定労働時間を超えた時間(時間外労働)が赤の部分、所定労働時間を超えた時間(法定内労働時間)がオレンジの部分。

まず、この月の歴日は31日なので、労働時間の上限は177.1時間です。このスケジュールの例では、第1週が40時間、第2週38時間、第3週42時間、第4週36時間、第5週16時間の合計172時間でスケジューリングしてあるため、労働時間の総枠の範囲以内に収まっていることになります。

スケジュール例のように、「この日は作業量が多いから8時間、この日は作業が早く終わりそうだから5時間…」と、より作業実態に合った労働時間をスケジュールすることができます。

【重要】残業時間の考え方

1か月単位の変形労働時間制では、残業時間の考え方も通常とは異なるので、注意が必要です。残業扱いになるのは、下記3つのパターンです。

① 1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

② 1週間については、40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)

③ 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①または②で時間外労働となる時間を除く)

出典:厚労省

次の項目で詳しく解説していきます。

①一日あたりの定めた時間/8時間を超える労働時間

あらかじめ定めた一日あたりの労働時間を超えて労働した場合、残業代が発生します。所定労働時間が8時間以内の日であれば8時間超、所定労働時間が8時間を超える時間を定めた日はその労働時間を超過した時間に対して残業代が発生します。

②週あたりの定めた時間/40時間を超えて労働した時間

週あたりの労働時間を超えて労働した場合、残業代が発生します。あらかじめ定めた労働時間が40時間以内の週であれば40時間超、40時間を超える時間を定めた週はその労働時間を超過した時間に対して残業代が発生します。なお、①の一日あたりで発生した残業時間は一日で精算するので、週あたりで発生した残業時間を重複して計算する必要はありません。

③ 変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間

変形期間、例えば1か月であれば1か月あたりの労働時間の総枠を超えて労働した場合も、残業代が発生します。なお、①または②の段階で発生した残業時間分に関しては一日、一週でそれぞれ精算するので、1か月あたりの労働時間の総枠で発生した残業時間を重複して計算する必要はありません。

1か月単位の変形労働時間制を導入すべき会社

上記のような特徴から、1か月単位の変形労働時間制の導入に向いている会社は以下のような特徴を持つ会社と言えます。

・月の中で月初や月末、特定の週等によって繁忙期と閑散期があり作業時間に差が出る

・隔日勤務、夜間勤務がある

・事前に週単位または月単位で作業時間の目星が付く

このような会社であれば、一定の労働時間で働くよりも労働実態に沿った勤務体系を構築することが可能です。

導入には就業規則で定めるか労使協定が必要

1か月単位の変形労働時間制を導入するには、就業規則に規定を設けるか労使協定の締結が必要です。

労使協定を定める場合の期間は、適切に運⽤するために3年以内程度とすることが望ましいでしょう。

1か月単位の変形労働時間制Q&A

ここからは、1か月単位の変形労働時間制について気になる疑問を解説します。

いつまでにスケジュールを行う?

Q:「1か月単位の変形労働時間制」では、あらかじめ各週の所定労働時間を定めておく必要があるとのことですが、いつまでに定めておく必要がありますか?

A:いつまでという指定はありませんが、変形期間の開始前までにはあらかじめ定めておく必要があります。従業員が把握しやすいよう、早めに定めておくことが理想的です。

スケジュール後に現場の予定がずれた場合

Q: 仮に第一週の所定労働時間を35時間、第二週を45時間と定めた月があったとします。現場のスケジュールがずれ、勤務実態は第一週45時間、第二週35時間となりました。この場合、第一週の超過した10時間について残業手当を支払う必要はありますか?(第二週との差分を考慮して残業代を帳消しすることはできるのでしょうか?)

A:あらかじめ定めたシフトは原則として変更できません。したがって、10時間分の残業手当は必要でしょう。差分を帳消しするような仕組みではなく、あくまでもシフト通りに働くことを前提とした制度です。

ベースの勤務時間は必要か

Q:「一ヵ月単位の変形労働時間制」では、ベースとなる勤務時間や休日を定める必要がありますか?また求人に記載する際はどのように表記すればいいでしょうか?

A:あらかじめシフトを設定してから働いてもらう仕組みのため、休日や勤務時間は定めることとなります。求人に記載する場合には、1ヶ月単位の変形労働時間制で働くこと、どのようなシフトになるか、休日がどの程度あるかなどは書く必要があります。

深夜手当・休日手当は必要か

Q: 深夜労働がある日は、深夜割増賃金を加算する必要がありますか?

A:深夜割増が適用除外になる制度ではないため、加算する必要はあります。

Q:休日出勤がある日は、休日の割増賃金を加算する必要がありますか?

A:シフトで休日となっている日に働く場合には、就業規則に従って割増を行う必要はあります。それが1.0倍なのか、週40時間を超える1.25倍なのか、法定休日の1.35倍なのかはその休日出勤の内容によって異なります。

監修協力

【プロフィール】 社会保険労務士法人エンチカ 波多野代表
株式会社フルキャストホールディングスに入社し、社会保険労務士資格取得後、人事領域の業務に従事。責任者として人事制度構築、労働組合対応、リストラクチャリングなど人事領域の幅広い業務を担当し、2013年に社会保険労務士として独立。4年間の個人事業主を経て、社会保険労務士法人エンチカを創業。

参考資料

厚生労働省:1ヶ月単位の変形労働時間制

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