残業代(時間外労働手当)は、「基礎賃金×1.25(割増率25%)×残業時間」で算出できます。
この記事では、
などについて解説します。
※ この記事では法律上の「時間外労働手当」のことを「残業代」と表記して解説しています。
残業代の基礎知識
まずは、残業代に関する基礎的な知識や定義を知りましょう。
残業代が発生する条件
法定時間外の労働には、原則(※1)として残業代が発生します。
法定労働時間は、原則(※2)1日8時間、週に40時間以下です。
※1 時間外労働を行っても、一定時間までは残業代が発生しない固定残業代という制度があります。詳しくは「固定残業代」ってなに?基本ルールと最近改正されたルールをチェック!の記事をご覧ください。
※2 法定労働時間について、変則的なルールを知りたい方は厚生労働省のHPをご覧ください。
残業代の計算方法
残業代の計算は、法律で定められた割増率で計算します。
項目 | 割増率 |
時間外労働 | 25%以上 |
月60時間以上を超えた時間外労働 | 50%以上 |
休日に出勤した際の割増賃金率 | 35%以上 |
深夜労働(22時~5時)の割増賃金率 | 25%以上 |
時間外かつ、深夜労働の割増賃金率 | 50%以上 ※ 時間外労働25%+深夜労働25% |
深夜労働かつ、休日出勤の割増賃金率 | 60%以上 ※ 休日出勤35%+深夜労働25% |
月60時間以上の時間外労働かつ、深夜労働の割増賃金率 | 75%以上 ※月60時間以上の時間外労働50%+深夜労働25% |
法定労働時間を超えた、時間外労働(残業代)の割増率は、25%以上です。
残業が月に60時間を超えた場合は、割増率が50%になります。
具体的な計算方法については、残業代の計算手順と具体例で解説します。
残業代は1分単位で計算する
残業代の計算は、1分単位で行う必要があります。
ただし、1ヶ月の総残業時間に対して、30分未満は切り捨て、30分以上は1時間に切り上げる処理を行うことができます。
残業代の端数処理
1時間あたりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる。
引用:厚生労働省 残業手当等の端数処理はどうしたらよいか
残業代を計算する際、時間当たりの賃金額に端数が生じた場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上1円未満の端数を1円に切り上げる処理を行います。
残業代の計算手順と具体例
ここからは、残業代の具体的な計算方法を解説していきます。
時給・日給・月給ごとの計算例
項目 | 割増率 |
時間外労働 | 25%以上 |
月60時間以上を超えた時間外労働 | 50%以上 |
残業代は、基礎賃金に25%の割増率をかけることで算出できます。
時給制・日給制・月給制ごとに残業代の計算方法を解説します。
時給制の場合
時給で働く方は、時給額をそのまま基礎賃金として、割増率をかけて残業代を計算します。
例えば、時給が1,000円の人が1時間残業をした場合の計算は以下の通りです。
基礎賃金1,000円×割増率1.25×残業時間1時間=1,250円
時給1,000円の人が残業した1時間分の給料は、1,250円以上になる必要があります。
日給制の場合
日給で働く方は、日給額を時給に換算して基礎賃金を算出した後、割増率をかけて残業代を計算します。
例えば、日給が10,000円の人が2.5時間残業をした場合の計算は以下の通りです。
日給10,000円÷8時間(法定労働時間)=時給1,250円
基礎賃金1,250円×割増率1.25×残業時間2.5時間=3,906円
日給10,000円の人が残業した2.5時間分の給料は、3,906円以上になる必要があります。
月給制の場合
月給で働く方は、月給額を時給に換算後、割増率をかけて残業代を計算します。
例えば、月給が240,000円の人が10時間残業をした場合の計算は以下の通りです。
月給240,000円÷22日(勤務日数)÷8時間(法定労働時間)=時給1364円(端数切り上げ)
基礎賃金1,364円×割増率1.25×残業時間10時間=17,050円
月給240,000円の人が残業した10時間分の給料は、17,050円以上になる必要があります。
なお、「月給」に手当(家族手当・通勤手当・住宅手当等)は含まれせん。手当を除外した月給額で計算を行ってください。
深夜・休日手当と残業代
時間外労働と深夜手当、休日手当が重なる勤務が発生した場合、割増率を合算して給与を計算します。
項目 | 割増率 |
時間外労働 | 25%以上 |
月60時間以上を超えた時間外労働 | 50%以上 |
休日に出勤した際の割増賃金率 | 35%以上 |
深夜労働(22時~5時)の割増賃金率 | 25%以上 |
時間外かつ、深夜労働の割増賃金率 | 50%以上 ※ 時間外労働25%+深夜労働25% |
深夜労働かつ、休日出勤の割増賃金率 | 60%以上 ※ 休日出勤35%+深夜労働25% |
月60時間以上の時間外労働かつ、深夜労働の割増賃金率 | 75%以上 ※月60時間以上の時間外労働50%+深夜労働25% |
具体的な計算の例は、夜勤手当(深夜割増賃金)の計算方法と相場|建設業の例とともに解説の記事で解説しているので、気になる方はぜひご覧ください。
残業代のカウント方法
残業代は、残業時間を元に計算するため、出勤時間・退勤時間のわかる勤怠管理システムやタイムカード等のデータでカウントするのが一般的です。
システムによっては、残業代の計算まで自動で行うものもあります。
残業代計算における注意点
残業代計算において、注意したいポイントをまとめました。
残業させるには36協定の締結が必要
企業が従業員を残業させる場合には、「時間外労働・休日労働に関する協定」(いわゆる「36(サブロク)協定」)を適正に締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」や「1日、1ヶ月、1年当たりの時間外労働の上限」などを定める必要があります。
2023年4月の計算方法改定
2023年4月から、中小企業の時間外労働(残業)に関する法律が変わり、残業代の計算方法が一部変更されています。
項目 | 割増率 (変更前) | 割増率 (2023年4月~) |
月60時間以上を超えた時間外労働 | 25%以上 | 50%以上 |
月60時間以上の時間外労働かつ、深夜労働の割増賃金率 | 50%以上 ※月60時間以上の時間外労働25%+深夜労働25% | 75%以上 ※月60時間以上の時間外労働50%+深夜労働25% |
2023年の法改正により、月に60時間を超える残業を行った際の割増賃金率が、25%から50%に増額されました。
残業時間が60時間未満であれば、今回の改正による残業代計算の変更はありません。
残業代を代替休暇にする方法
1ヶ月60時間を超えた時間外労働が発生した場合、割増賃金を支払う方法のほかに、代替休暇を付与する方法を選択することもできます。
例えば、70時間の時間外労働があった労働者に対し、60時間を超えた10時間分を1.5割増の割増賃金を支払う方法のほか、10時間分の有給休暇を与えるという方法を選ぶことも可能です。
ただし、代替休暇を選択するには労使協定を締結している必要があります。
*有給休暇は1日または半日単位で取得することが定められています。そのため、代替休暇に充てる時間に端数が出てしまう場合は金銭での支払いと代替休暇を組み合わせるか、他の有給休暇と組み合わせる必要があります(下図参照)。
固定残業代制度
残業代は、原則法定労働時間を超えた際に発生しますが、基本給にあらかじめ残業代を加算しておく固定残業代という仕組みがあります。
固定残業代は、 「見込み残業」「みなし残業」などとも呼ばれています。
以下は、求人票等によくある固定残業代の記載例です。
月給280,000円(45時間分の固定残業手当月63,640円を含む。追加分は別途支給 )
この場合、従業員の月給には、あらかじめ45時間分の残業手当を含めて支給するという条件で労働契約が結ばれます。つまり、月の残業が45時間以内であれば、残業代は発生しません。
なお、残業が45時間未満の場合でも、月給から固定残業代をマイナスすることはできません。
◆ 固定残業代についてより詳しく知りたい方は、「固定残業代」ってなに?基本ルールと最近改正されたルールをチェック!の記事もぜひご覧ください!
残業代よくある質問
残業代に関するよくある質問をまとめました。
固定残業代を超過した場合の対応は?
固定残業代を超過した場合は、超過した時間に対して法定通りの割増率で残業代を支給する必要があります。
計算方法は、時給・日給・月給ごとの計算例の項目で解説しています。
管理職に残業代は発生する?
労働基準法上の「管理監督者」に当てはまる労働者には、残業代は発生しません。
ただし、従業員を名ばかりの管理職にしても、労働基準法の管理監督者に当てはまらないと判断された場合には残業代支給の義務が発生します。
「管理監督者」は労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいい、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。
「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。企業内で管理職とされていても、次に掲げる判断基準に基づき総合的に判断した結果、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合には、労働基準法で定める労働時間等の規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。
・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること
・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること
・現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること
・賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること
引用:厚生労働省 労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために
法定労働時間と所定労働時間の違いは?
・法定労働時間:国が企業に対して定めた労働時間(原則1日8時間、週に40時間以下)
・所定労働時間:企業等が従業員に対して定める労働時間
法定労働時間は国が企業に定める労働時間なのに対し、所定労働時間は企業が従業員に対して定める労働時間です。
所定労働時間は、法定労働時間の範囲内で企業が自由に決定することができます。
なお、所定労働時間を超えて労働した場合でも、法定労働時間を超えていなければ時間外割増は発生しません。
残業代と時間外手当の違いは?
時間外手当は、労働基準法で定められた支給義務のある手当です。対して、「残業代」は法律で基準が定められた制度ではありません。
時間外手当のことを便宜上「残業代」と呼んでいるケースが多いです。
まとめ
残業代の計算方法について、基本的な制度や具体的な計算方法を解説しました。
時間外手当は、法律で支給が義務付けられた制度です。
計算方法を知り、正しい賃金を支給しましょう。
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