夜勤手当には法律で定められた支給基準がありません。
一方、22時~翌朝5時の労働で発生する深夜割増賃金は、時給×1.25倍以上の賃金の支給義務があります。
深夜割増賃金のことを、便宜上、夜勤手当と呼んでいる会社もあります。
この記事では、
・深夜割増賃金の計算方法(時給制/日給制/月給制)
などについて解説していきます。
夜勤手当(深夜割増賃金)とは?基礎知識や法的な扱いを解説
まずは、夜勤手当(深夜割増賃金)について基礎知識や法的な扱いを解説します。
夜勤手当とは?
・夜勤手当=夜勤時に支給される手当
・法律で支払いが義務付けられているのは「深夜割増賃金」
・夜勤手当≠深夜割増賃金だが、便宜上、深夜割増賃金のことを「夜勤手当」と呼んでいる会社もある
夜勤手当とは、夜勤の際に給料とは別で支払われる手当のことです。
実は、「夜勤手当」は法律で支給が定められた手当ではありません。
とはいっても、「夜間に働いても手当を支給しなくていい」ということではありません。夜間の労働で支給が義務付けられているのは、「深夜割増賃金」という名称の割増賃金です。
ただ、この深夜割増賃金のことを、便宜上「夜勤手当」と呼んでいる会社もあります。
夜勤手当と深夜割増賃金の法的な扱いの違いは、次の項目で詳しく解説します。
夜勤手当と深夜割増賃金の法的な取り扱い
夜勤手当と深夜割増賃金の法的な取り扱いを比較しました。
夜勤手当 | 深夜割増賃金 | |
支給義務 | なし | あり |
時間の規定 | 自由 | 夜22時~翌朝5時 |
金額の規定 | 規定なし | 1時間あたりの給与の1.25倍(25%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) |
夜勤手当は、雇用主が自由に支給する時間・金額を決めることができる
夜勤手当は法律で支給が義務付けられたものではないので、支給ルールは会社の自由です。
極端なことを言えば、お昼の12時以降の仕事を夜勤手当の支給対象としても問題ありません。また、支給金額についても規定はなく、会社が自由に設定することができます。
深夜割増賃金は、夜22時~翌朝5時の時間帯に支給が義務付けられている
深夜割増賃金は「労働基準法」という法律によって支給することが会社に義務付けられています。
支給額の計算方法も決まっており、夜22時~翌朝5時の労働に通常の1.25倍(25%増)以上の賃金を支払う必要があります。
夜勤手当(深夜割増賃金)の計算方法
深夜割増賃金は、夜22時~翌朝5時の間は通常賃金の1.25倍(25%増)以上を支給するのが基本の考え方です。
計算方法は時給・日給・月給の場合で異なります。また、時間外労働や休日出勤が組み合わさった場合、少々複雑になります。
様々な例とともに、割増賃金の計算方法をご紹介していきます。
【時給制】深夜割増賃金の計算方法
時給で働く人の深夜割増賃金を計算する場合、時給に割増率である1.25をかけることで算出できます。
時給1,000円の場合、深夜割増賃金込みの給与が1時間あたり1,250円(通常より250円アップ)以上であれば、法的に正しい給与が支給されていることになります。
【日給制】深夜割増賃金の計算方法
日給および月給制の場合、給与を時給に換算して1時間当たりの支給金額を算出します。
日給10,000円の場合、深夜割増賃金込みの給与は1時間あたり1,563円(通常より313円アップ)以上であれば、法的に正しい給与が支給されていることになります。
※ 夜間勤務を前提とした契約の場合、最初から深夜割増賃金込みの日給額を提示している場合もあります。契約者と労働者双方で確認するようにしましょう。
【月給制】深夜割増賃金の計算方法
日給および月給制の場合、給与を時給に換算して1時間当たりの支給金額を算出します。
月給22万円の場合、深夜割増賃金込みの給与は1時間あたり1,563円(通常より313円アップ)以上であれば、法的に正しい給与が支給されていることになります。
※ 月給で計算をする場合、1ヶ月の労働日数を元に計算します。月ごとに労働日数に変動がある場合は、1年間の労働日数から1ヶ月の平均労働日数を算出して計算します。
【応用①】深夜割増賃金×残業代(時間外労働手当)の計算方法
深夜割増賃金 | 時間外労働手当 | 深夜割増賃金+ 時間外労働手当 | |
支給義務 | あり | あり | 両方支給義務あり |
時間の規定 | 夜22時~翌朝5時 | 所定の労働時間外 | 左記の内容参照 |
金額の規定 | 1時間あたりの給与の1.25倍(25%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) | 1時間あたりの給与の1.25倍(25%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) | 1.50倍(50%増)以上 |
所定の労働時間を越えて深夜帯の労働を行う場合、深夜割増賃金と時間外労働手当(残業代)の2つを考慮して給与を計算する必要があります。
深夜帯の残業では、通常の1.25倍以上の支給が義務付けられている深夜割増賃金に加え、同じく通常の1.25倍以上の支給が義務付けられている時間外労働手当が発生します。
つまり、深夜帯の残業は、通常の1.50倍(50%増)以上の賃金を支給する必要があります。
上記労働例の場合、計算を2工程に分けます。
①時間外労働手当のみ対象となる時間、②時間外労働手当と深夜割増賃金の両方が対象となる時間のそれぞれで計算を行い、最後に合算します。
すると、残業と深夜労働両方が発生した際の割増賃金が算出できます。
【応用②】深夜割増賃金×休日出勤の場合の計算方法
深夜割増賃金 | 休日出勤手当 | 深夜割増賃金+ 休日出勤手当 | |
支給義務 | あり | あり | 両方支給義務あり |
時間の規定 | 夜22時~翌朝5時 | 所定の労働日外 | 左記の内容参照 |
金額の規定 | 1時間あたりの給与の1.25倍(25%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) | 1時間あたりの給与の1.35倍(35%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) | 1.60倍(60%増)以上 |
所定の労働日以外に深夜帯の労働を行う場合、深夜割増賃金と休日出勤手当の2つを考慮して給与を計算する必要があります。
休日出勤かつ深夜帯の労働の場合、通常の1.25倍以上の支給が義務付けられている深夜割増賃金に加え、通常の1.35倍以上の支給が義務付けられている休日出勤手当が発生します。
つまり、深夜帯の休日出勤は、通常の1.60倍(60%増)以上の賃金を支給する必要があります。
残業代、深夜割増賃金は1.25倍以上ですが、休日出勤手当は1.35倍以上とやや割高です。
1.25倍と混同しやすいので、注意しておきましょう。
夜勤手当(深夜割増賃金)を扱う上での例外・注意点
夜勤手当(深夜割増賃金)を扱う上での例外や注意点についてまとめました。
割増賃金の計算時の注意点
割増対象となる労働は、他の割増対象となる要素を含む場合、各割増賃金率を合算して割増賃金を算出する必要があります。
発生した労働\重なった割増対象 | 深夜割増賃金(1.25倍) | 時間外手当(1.25倍) | 休日出勤手当(1.35倍) |
深夜労働(1.25倍) | ‐ | 1.5倍 | 1.6倍 |
時間外労働(1.25倍) | 1.5倍 | ‐ | 1.6倍 |
休日出勤(1.35倍) | 1.6倍 | 1.6倍 | ‐ |
割増賃金の一覧と、別の割増対象が発生した場合の割増賃金率については上表をご覧ください。
具体的な賃金の計算例は、夜勤手当(深夜割増賃金)の計算方法の項目でご紹介しています。
深夜割増賃金は管理職も対象となる
管理職(労働基準法上の管理監督者)も、深夜帯に労働した場合は深夜割増賃金の対象となります。
管理職は残業手当や休日出勤手当の対象とならないため混同されがちなのですが、深夜労働の割増対象には該当します。しっかりと支給しましょう。
18歳未満は深夜労働が禁止されている
労働基準法により、18歳未満は深夜労働ができません。
割増賃金の支給にかかわらず深夜帯に労働させることはできませんので、注意が必要です。
割増賃金額の端数の処理方法は?
① 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げで計算する
② 1ヶ月間における割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、①と同様に処理する。
※ 情報出典:厚生労働省 残業手当等の端数処理はどうしたらよいか
割増賃金を計算していて1円未満の端数が出た場合は、上記2通りのいずれかを選択して処理を行います。
夜勤手当(深夜割増賃金)がない会社に入ってしまったら?
深夜割増賃金が支払われない会社に入ってしまった場合の法的解釈や対処法についてまとめました。
深夜割増賃金未払いの会社は違法?
深夜割増賃金を支払わずに労働をさせている会社は、違法です。
深夜割増賃金未払いが発覚すると、会社は労働基準監督署から「是正勧告」を受けることになります。
勧告を受けてもなお改善が見られない場合は、刑事事件へと移行します。
刑事事件となった場合、会社責任者が書類送検されたり、最悪の場合には逮捕される可能性もあります。
深夜割増賃金の未払い請求はできる?
深夜割増賃金の未払い分がある場合、請求は可能です。
しかし、労働者と会社側で話がつかない場合は、弁護士等の専門家に間に入ってもらい解決する必要があります。
夜勤手当(深夜割増賃金)Q&A
深夜割増賃金に関するよくある質問・疑問をまとめました。
夜勤手当(深夜割増賃金)の相場は?
東京都産業労働局の調査によると、夜勤手当(深夜割増賃金)の相場は、25%~50%です。
グラフを見ると、最も多いのが法定基準である25%で、企業の52%が該当します。
また、法定基準以上に支払っている企業も半数程度あることも覚えておきましょう。
法定基準を下回ることはNGですが、規定額以上の支給は、各企業の判断のもと自由に行うことができます。
夜勤手当は何時から何時まで?
深夜割増賃金は夜22時から翌朝5時までが該当します。
夜勤手当には、決められた時間はありません。
夜勤手当 | 深夜割増賃金 | |
支給義務 | なし | あり |
時間の規定 | 自由 | 夜22時~翌朝5時 |
金額の規定 | 規定なし | 1時間あたりの給与の1.25倍(25%増)以上 ※ 50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げ(詳細) |
詳しくは、夜勤手当と深夜割増賃金の法的な取り扱いで解説しています。
まとめ
夜勤手当と深夜割増賃金の違いや計算方法について解説しました。
上記のルールをしっかり覚えておきましょう!
◆ 手当の計算の次は、最低賃金の計算方法も確認しましょう。計算方法は【2024年6月最新】最低賃金の全国一覧表!ランキングも紹介の記事で詳しく解説しています。
◆ 残業代の計算法方法について知りたい方は、残業代の計算方法|建設業者向けにわかりやすく解説の記事もぜひご覧ください!
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