建設業の熱中症死亡者数推移|労災の発生事例や予防方法も紹介

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2023年の建設業の熱中症死傷者は209人。うち死亡者は12人です。

建設業の死傷者数の推移は、グラフの通りです。

建設業の熱中症死傷者(死亡者)数グラフ
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)

この記事では、

建設業における熱中症事故データ定義業種別月別時間別発生数推移

建設業における熱中症死亡事故の事例

熱中症の予防方法 を解説していきます。

最新版データを読み解き、熱中症の発生メカニズムや対策方法を具体的に知りましょう。

建設業における熱中症事故データ(定義、状況別発生数推移)

建設業の熱中症発生数推移(状況別)

建設業における熱中症事故データ(定義、状況別発生数推移)をまとめました。

どのようなときに、どれくらいの熱中症事故が起こっているかを知ることで、より具体的な危機管理意識を持つことができます。

熱中症の定義

熱中症とは、外気温の暑さや、運動などによって体で作られる熱が増加したことを原因として発生する身体不調の総称です。

熱中症に明確な定義はありませんが、参考に日本救急医学会で定義された熱中症の基準をご紹介します。

暑熱曝露あるいは身体運動による体熱産生の増加を契機として高体温を伴った全身の諸症状が引き起こされる。
この暑熱による障害は従来、主に症状から分類され熱失神、 熱痙攣、熱疲労、熱射病などとして表現されてきた。

本ガイドラインでは、これらの諸症状・病態を一連のスペクトラムとして「熱中症」として総称するものと定義する。

引用元:日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2015

建設業における熱中症の発生状況推移

建設業の熱中症死傷者(死亡者)数グラフ
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)

建設業における熱中症の発生状況をグラフにまとめました。

最新データである2023年の建設業の熱中症死傷者は209人。うち死亡者は12人です。

2021年には一時的に発生件数が減りましたが、近年は再度増加しています。

業種別 熱中症の発生状況推移の項目でご紹介しますが、建設業は、業種別に見たときに熱中症の発生件数が最も多い業界です。

業種別 熱中症の発生状況推移

2019年2020年2021年2022年2023年
建設業153
(10)
215
(7)
130
(11)
179
(14)
209
(12)
886
(54)
製造業184
(4)
199
(6)
87
(2)
145
(2)
231
(4)
846
(18)
運送業110
(2)
137
(0)
61
(1)
129
(1)
146
(1)
583
(5)
警備業73
(4)
82
(1)
68
(1)
91
(6)
114
(6)
428
(18)
商業87
(1)
78
(2)
63
(3)
82
(2)
125
(3)
435
(11)
清掃・と畜業61
(0)
61
(4)
31
(0)
58
(2)
61
(0)
272
(6)
農業19
(0)
14
(1)
14
(2)
21
(2)
27
(4)
95
(9)
林業7
(0)
7
(0)
7
(0)
6
(0)
9
(0)
36
(0)
その他135
(4)
166
(1)
100
(0)
116
(1)
184
(1)
701
(7)
829
(25)
959
(22)
561
(20)
827
(30)
1,106
(31)
4,282
(128)
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。

業種別に見た国内の熱中症死傷者数推移は表の通りです。

データの中で特に重要な点を以下で解説します。

建設業は熱中症の死傷者数が全業種ワースト1位

建設業は、過去5年間の熱中症による死傷者が最も多い業界です

死傷者数の多い業界に共通する原因

熱中症の発生件数が多い業界の特徴は、外仕事が多いこと立ち仕事や運動量の多い仕事であること、また、外気温の影響を受けやすい仕事であることです。

国内の熱中症死傷者は建設業と製造業が飛びぬけて多く、次点で運送業、警備業、商業が続いています。

建設業は死亡者の割合も高い

建設業は、熱中症による死亡者の割合が高いことも問題です。建設業の過去5年間の死傷者は886名。うち死亡者は54名で死亡率は6.1%です。死傷者数が846名と比較的建設業に近い製造業の死亡者は18名で死亡率は2.1%であることから、建設業は製造業と比較して熱中症による死亡リスクが3倍近く高いということになります。

2023年は熱中症患者が急増

2023年の国内熱中症死傷者は1,106名で、過去5年間で最も多い数字です

これには、近年の気温上昇等の影響があると推察されます。

月別発生状況

2019年2020年2021年2022年2023年
4月以前1
(0)
2
(0)
4
(0)
2
(0)
5
(0)
14
(0)
5月29
(0)
16
(1)
7
(1)
14
(0)
21
(0)
87
(2)
6月45
(1)
85
(0)
41
(0)
184
(10)
63
(1)
418
(12)
7月177
(5)
115
(4)
213
(7)
291
(9)
431
(18)
1,227
(43)
8月472
(15)
651
(16)
269
(12)
280
(10)
493
(10)
2,165
(63)
9月97
(3)
84
(1)
20
(0)
46
(1)
86
(2)
333
(7)
10月以降8
(1)
6
(0)
7
(0)
10
(0)
7
(0)
38
(1)
829
(25)
959
(22)
561
(20)
827
(30)
1,106
(31)
4,282
(128)
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)
※ 4月以前は1月から4月まで、10 月以降は 10 月から 12 月までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。

月別の熱中症発生件数は表の通りです。

熱中症は、気温が高くなる7月・8月に多く発生します。ただし、4月以前や10月以降にも熱中症は発生しており、涼しい月だからと言って油断しないことが大切です。

時間帯別発生状況

2019年2020年2021年2022年2023年
9時台以前92
(1)
69
(3)
48
(0)
100
(1)
143
(4)
487
(8)
10時台69
(3)
102
(3)
56
(1)
78
(3)
118
(2)
423
(12)
11時台93
(2)
119
(0)
74
(3)
87
(1)
155
(6)
528
(12)
12時台56
(1)
86
(3)
53
(4)
53
(3)
104
(1)
352
(12)
13時台75
(4)
73
(4)
47
(3)
74
(2)
72
(0)
341
(13)
14時台109
(6)
116
(3)
63
(3)
115
(3)
124
(5)
527
(20)
15時台114
(3)
124
(2)
73
(0)
106
(6)
123
(2)
540
(13)
16時台94
(0)
92
(4)
61
(3)
92
(2)
105
(1)
444
(10)
17時台55
(3)
61
(0)
38
(3)
55
(5)
76
(8)
258
(19)
18時台以降72
(2)
82
(1)
48
(0)
67
(4)
86
(2)
355
(9)
829
(25)
959
(22)
561
(20)
827
(30)
1,106
(31)
4,282
(128)
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)
※ 9 時台以前は 0 時台から 9 時台まで、18 時台以降は 18 時台から 23 時台までを指す。
※ ( )内の数値は死亡者数で内数である。

時間帯別の熱中症発生件数は表の通りです。

熱中症の発生件数が最も多いのは15時台です。次点で11時台、14時台が続き、気温の高い日中が最も注意すべき時間帯であると言えます。

なお、12時~13時の発生件数が少ないのは、昼休憩の時間と被っていることが影響していると予想できます。

建設業における熱中症死亡事故の事例

建設業における熱中症死亡事故事例

建設業や近い業種で実際に発生した熱中症の死傷事故事例をご紹介します。

過去の事例を学ぶことで、似た状況になった際に事前に事故の発生を防ぐことができます。

ケース1:電気設備工事業の事案

業種年代気温暑さ指数
(WBGT*
事案の概要
7月建設業
(電気設備工事業)
60代30.4℃26.7℃被災者は10時から同僚と2人で個人宅へ
家電の配送、設置を行っていた。
7件の配送業務を終え、16時45分に
店舗に戻った際に胸の痛みを訴えた
ため、
同僚が病院へ連れて行ったところ、
その後病院で死亡した。
データ出典:令和5年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)

電気設備工事業の熱中症死亡事例です。この事例では、仕事完了後、店舗に戻った後に体調不良を訴え病院を受診しましたが、その後死亡しています。

熱中症は、軽度の症状が出た段階ですぐ応急処置を施すことが大切です。少しでも違和感を覚えたら、涼しい場所で休む、水を飲むなどの対応を行いましょう。症状が重くなってから病院を受診しても、処置が間に合わないことがあります。

◆ 緊急搬送については熱中症の救急措置と救急搬送の判断ポイント~全員知るべき緊急対応~の記事で詳しくご紹介しています!

ケース2:鉄骨・鉄筋コンクリート造家屋建築工事業の事案

業種年代気温暑さ指数
(WBGT*
事案の概要
7月建設業
(鉄骨・鉄筋
コンクリート
造家屋建築工事業)
50代30.3℃30.3℃被災者は8時15分頃からの
型枠取り付け業務に従事していた。
適宜休憩を取りながら作業していたが
14時50分頃事業主から体調不良を指摘され
休憩に向かったが、15時ごろに同僚が
倒れている被災者を発見し

緊急搬送されたが、搬送先の病院で死亡した。

建築工事業の熱中症死亡事例です。この事例では、作業中に体調不良を指摘され休憩に向かった作業員が、その10分後に倒れているのを発見され、死亡しています。

熱中症の疑いがある人がいる場合、必ず近くで見守る人を付けましょう。症状の改善を見守り、改善が見られない場合は早急に救急搬送を行う必要があります

ケース3:土地整理土木工事業の事案

業種年代気温暑さ指数
(WBGT*
事案の概要
7月建設業
(土地整理土木工事業)
50代31.6℃27.4℃被災者は8時30分から17時頃まで、適宜
休憩をとりながら住宅造成工事現場にて
外周擁壁に係る型枠組み立て作業に
従事していた。
17時15分頃作業終了後の片付け中に
被災者が急にふらつき、地面に
横たわったため水分補給させていたが、
17時47分頃被災者からの応答がなくなり
緊急搬送されたが
搬送先の病院で死亡した。

土木工事業の熱中症死亡事例です。この事例では、適宜休憩をとっており、ふらつきが見られた段階で応急処置をしたものの、その後死亡しています。

熱中症は、気温や環境等の外的要因のほか本人の身体的な要因(高齢者や乳幼児・肥満、二日酔いや寝不足などの体調不良)が引き金となることもあります。

他者からは見えない部分にリスクが潜んでいる場合もあるため、気温や作業内容に問題がないようであっても注意が必要です。

ケース4:一般貨物自動車運送業の事案

業種年代気温暑さ指数
(WBGT*
事案の概要
8月運送業
(一般貨物自動車運送業)
44代31.5℃29.3℃被災者は8時頃から倉庫で
荷のピッキング作業
に従事していた。
適宜休憩を取りながら作業を
続けていたが、11時50分頃に被災者が
倉庫内で倒れている状態で発見され、
保冷剤で首等を身体冷却したあとに
緊急搬送されたが、
搬送先の病院で死亡した。

運送業の熱中症死亡事例です。この事例は、屋内の作業で発生した熱中症の死亡例です。

熱中症は、屋内や直射日光の当たらない場所でも発生します。特に室内の温度や湿度が高い場合は、屋外同様に熱中症のリスクがあることを心に留め、適宜休憩や水分補給を行うことが必要です。

熱中症の予防方法

熱中症の予防方法

熱中症による死傷事故を防ぐには、データや事例を知るほか、専用の対策グッズの導入緊急搬送時のポイントを知ることも大切です。

以下で、熱中症対策に役立つ記事のリンクをご紹介します。

興味のある情報があれば、ぜひ合わせてご覧ください。

熱中症患者が出てしまったら?救急搬送のポイント

現代では、基本的な熱中症対策をすることはもちろん、万が一熱中症患者が発生してしまった際の救急措置をすべての人が実施できることが重要です。

熱中症の救急措置と救急搬送の判断ポイント~全員知るべき緊急対応~の記事では、以下のポイントを解説しています。

熱中症対策におすすめのグッズ

2024年最新版の、建設業で働く方に使いやすい熱中症対策グッズを知りましょう。

2024年建設業の熱中症対策グッズ~ヘルメットから塩飴まで多数紹介~の記事では、以下のポイントを解説しています。

熱中症リスクを計算できるWBGT値

熱中症リスクを把握するため役立つ指標、WBGT(湿球黒球温度)をご存じでしょうか。

WBGT値は国からも測定が推奨されている、新しい健康管理のための指標です。

WBGT値とは?~熱中症リスクの計算は湿度がカギ~の記事では、以下のポイントを解説しています。

紫外線予防を始めよう!初心者向け日焼け対策

日焼け(紫外線に当たること)は肌が黒くなるだけではなく、健康上のリスクが潜んでいます。

建設業者の日焼け対策~紫外線リスクと対策グッズ紹介~の記事では、以下のポイントを解説しています。

まとめ~死傷者を出さないために~

夏の暑さは年々厳しくなり、熱中症リスクも高まっています。

発生した過去の事例を知り、同じような事故を起こさないようにしましょう。

今年の夏もご安全にお過ごしください。

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