【震災と建設業】とは?
石川県能登半島地震の復旧対応に尽力されている建設会社さまに取材し、発災当時のことや、能登の復旧・復興に対する想いなどをお話ししていただく企画です。
第2回目の今回は、輪島市町野町の建設会社「刀祢建設株式会社」様にお話を伺いました。
※この記事には被災地の画像が含まれます。
▼第1回の記事はこちら
インタビュー企業プロフィール
刀祢建設(とねけんせつ)株式会社:昭和21年、先代の石工業から創業し、昭和52年に刀祢建設株式会社へ法人化。平時は主に土木一式工事や解体工事を請け負うほか、食品・運送・不動産と幅広い分野で地域に貢献してきた。
震災前と震災後の業務について
―(編集部)ふだん請け負われている工事内容を教えてください。
―(粟倉さん)震災前は、土木一式工事と解体工事に加えて、冬は除雪や塩まき(散布)も行なっていました。また、浄化槽の据付けや修理も手掛けていました。
そのほか、道路パトロールと言って、珠洲市以外の奥能登地区で、崖崩れや道路の破損を見回って保全を行う仕事を、3~4年に1回という頻度で担当していました。
―(編集部)震災後は、やはり業務内容も変わったのでしょうか?
―(粟倉さん)そうですね。震災後は、川が決壊しないように土のうを積んだり、道路を通れるようにしたりといった業務を優先的に行なっています。また、解体する家から出た災害ごみの回収や仕分けもしています。
「この町をどうにかせんといかん」地域の皆で復旧にあたる日々
―(編集部)震災後、復旧対応を開始されたのはいつ頃でしょうか?
―(粟倉さん)会社としては、地震発生(2024年1月1日)の直後から対応していました。
会社は海沿いにあるのですが、幸い津波も到達せず無事でした。そこで会社の近くに住む従業員が集まって、1月1日の17時頃には、道路の保全や橋のすり付け舗装を始めていたと思います。そういった復旧対応をしながら、道中で動けなくなってしまった車を助けたりなど、救出作業も行なっていました。
―(編集部)震災の発生が1月1日の16時頃ですから、本当に直後から対応されていたんですね。
―(粟倉さん)ただ私や社長は、住んでいた家が地震で潰れてしまったので、近くの小学校に避難していました。怪我をした家族がドクターヘリで運ばれるのを見送って、1月4日から仕事に復帰しました。
被災状況がそれぞれ違ったので、当時約20名いた土木部のうち、最初の1~2日から復旧対応にあたったのは5~10名ほどでした。
―(編集部)社員の皆さんは、自主的に集まって復旧対応を開始されたのでしょうか?
―(粟倉さん)はい、そうです。弊社は県や市と災害協定を結んでいるので、本来であれば復旧対応の依頼が来るのですが、それを待たずに自発的に対応を開始していました。
近隣の建設会社とも連携し、さらには弊社の元社員も協力してくれて、会社の垣根を超えたワンチームとなって対応していました。また、砂利を運搬していたら「なんか手伝うことないか」と声をかけられ、建設業以外の方も何人も手伝ってくれました。
「この町をどうにかせんといかん」「皆で何かせないかん」という想いで、地域の皆で出来ることをしていたという状況でした。
―(編集部)私が1月7日に能登を出た時にも、地域の方がおそらく自主的に交通誘導をして下さっていました。
―(粟倉さん)職種も関係ない、とりあえず手伝うわ、やるわっていう状況でしたね。建設業ではない一般の方も「免許を持っているから」と、ダンプに乗ったり、木を伐ったりしてくれました。
段取りやスケジュールの調整は弊社の部長が行なっていましたが、復旧対応は本当に「皆で」やっていました。そのくらい酷い状態でしたからね。
「建設業者」と「被災者」のはざまで
―(編集部)本当に大変なことばかりだったと思いますが、その中でも特に大変だったことは?
―(粟倉さん)私もそうですが、皆「被災者」じゃないですか。建設会社に勤めている以上、復旧対応をしなければいけないけど、家の片付けがあったり、中には家族を亡くした人もいて。そんな状況で100%仕事に打ち込めるかと言うと、そうはいかないですよね。
復旧を急ぐために、土日も関係なく仕事に出なければいけないけど、実際は心も体も疲れきって、休む家もない。そうなると、やっぱりバランスが崩れますよね。それで辞めてしまった人もいます。
それから、資格を持って経験豊富な社員となると、基本的に60代以上なんですよ。そうなると、能登以外に住む息子さん・娘さんから「危ないからこっちに避難して来てよ」と言われますよね。
弊社にも、何十年も現場監督経験があるベテランがいたんですけど、その方のお子さんと私が知り合いだったので、「頼むからお父さんを説得して、危ないところに行かせないでくれ」と電話があったんですよ。それで私が説得したんですが、「建設会社のもんが、こんな時に建設せんとどうするんや」と言って、自ら危ない地域の復旧対応に行ってしまったんです。その時は、さすがに泣いてしまいましたね。
その方も、最終的には弊社を辞めて、能登を出ています。地震が起きる前は「あと3~4年はおるわ」と言ってくれていましたし、本人も残念だったと思いますが……。なので、技術を持った人が結構辞めてしまったのは辛いところですね。
会社としては、「この地区はうちらが頑張らんといかん」という想いでいますし、私も同じ気持ちです。それでも正直、「また危ねえとこ行くなぁ」とか、「うわ怖えーな」という気持ちの方が大きくなってしまうこともあります。複雑ですし、葛藤もしますが、でも結局は、やるしかないですから。
―(編集部)そんな中で、先日は豪雨災害もありました。
―(粟倉さん)地震があってからずっと復旧対応を頑張ってきて、ようやく半年経ったなと思ったところに、この豪雨災害で。地震には耐えた家が今回の豪雨で駄目になったとか、建て替え途中の家の基礎がやられたとか、下手したら地震の時以上に辛く感じた人が多かったんじゃないかと思います。
復旧対応の方も、振り出しに戻ってしまいました。道が川のようになって、民家にも水が流れ込んでいたり、流木だらけで通れない道があったり。会社近くの橋も落ちて、積んでいた土のうが崩れてしまいました。せっかく綺麗にしていたのに、振り出しどころかマイナスですね。
こういう状況で、「やっぱ辞めますわ」という人もいれば、悩みながらも「ここで働くわ」という人もいます。逆に、震災をきっかけにボランティアとして京都から来て、そのまま未経験でうちに入社した人もいます。それから、昨年の12月に金沢からうちに来た社員が、入社直後に震災を経験しても、そのまま働き続けてくれていたり。本当にありがたいですね。
能登の「今」と「これから」を知ってほしい
―(編集部)1月からずっと大変な状況が続いていると思いますが、「これがあるから頑張れている」ということはありますか?
―(粟倉さん)弊社は輪島市東部の町野地区で50年やっている地元の建設会社なので、「この地区はうちらがやらなければ」という強い気持ちですね。
あとは、「道、良いがなったね」「刀祢さんのおかげやね」と言ってもらえると、「また頑張ろう」ってなりますね。本当にシンプルに、それだけかもしれません。
今回の災害で能登を出て行った人がたくさんいる一方で、「それでも残りたい」という人や、「落ち着いたら能登に帰ってきたい」という人もいます。本音を言えば、私たちも危険が付きまとう作業は怖いですが、地域の皆が喜んでくれて、「これだけ酷い状態を自分たちが直したんだ」という自信にもなるはずだと思って、今は目先の復旧対応を頑張っています。
ただ、こういう「リアル」が、能登以外の方になかなか伝わらないことが、一番もどかしいです。「モチベーション高く取り組んでいます、必ず能登を復興させます」と言いたいけど、現実はこうなんです。だからこの取材を一つの記録として、少しでも多くの方に知ってほしいと思っています。
そして、最終的にこの町が、この会社がどうなったのかまでを伝えてほしいです。もちろん、「復興した能登に人が集まってきた」というハッピーエンドを目指すけれど、もしそうならなかったとしても、ありのままを伝えてほしい。「まだ頑張ってるんだな」「最終的にはこうなったんだな」と関心を持ち続けてもらえることが、私の願いです。
『建設魂』読者へのメッセージ
―(編集部)最後に、建設魂の読者へ伝えたいことがあれば、是非お願いします。
―(粟倉さん)同業の方が多いので分かると思うんですが、もともと建設業=人気がない、若手が入ってこなくて高齢化が進んでいる、と言われているじゃないですか。そんな中で、さらにうちみたいな田舎で、かつ地震や豪雨の被害に遭っていても、「皆でやっていこうぜ」と踏ん張っている会社がいることを、まずは知ってほしいなと思います。
また、県外から復旧対応のために来てくれている業者さんに対しては、とにかく感謝しかないです。自分の生まれ育った能登のために力を尽くしてくれるのは、本当にありがたいです。
それから、どうか天災に対してしっかり備えてほしいです。自分の住んでいる地域に同じことが起きたらと想像して、皆さん一人ひとりに気を付けていただきたいと思います。
取材を受けて下さる企業様を募集中です
建設魂では、能登半島地震の復旧対応に関して、取材を受けて下さる企業様を募集しています。
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