アートとの出会い
こんにちは!電工魂ライターのSです。
最近は気温も上がり日中は暑いくらいの日もありますね。
そろそろ、扇風機と蚊取り線香で過ごす夏がやってくる…。
そう。こんな感じです。
あれ?この既視感……
配線だ!!
制御盤屋の配線アート
先ほどご紹介した作品は、実は配線で作ったアート作品。
この配線アートを手掛けたのは、大阪市豊中市に本社を構える五色電機(ごしきでんき)の西坂夏代さんです。
このような作品を手掛けたきっかけや、西坂さんの経歴が非常に気になるので早速インタビューしてきました。
SNSで配線の美しさが話題に
―(編集部)配線アートを始めたきっかけについて教えてください。
―(西坂さん)制作をはじめたのは、2020年2月ごろです。
ちょうどこの時期に配線作業の様子をツイッターに載せたところ、ツイートがバズった…とまではいかないですが、多くの人に見てもらえました。
自分と同じように配線の美しさに興味を持つ人が一定数いることを実感したのが、形にしてみようと思ったきっかけです。
―(編集部)制御盤関連の方以外からも注目が集まっていました。すごいですね!
「マザーボードがビル街にしか見えない」
―(編集部)配線をアートにしようという発想力はどこからやってくるのでしょうか。
―(西坂さん)もともと、幼少期からPCのマザーボードなどを見ると高層ビルの立ち並ぶビル街にしか見えなかったり、電子部品が可愛いと感じるタイプの人間でした。
私は制御盤製作の実務にも携わっているのですが、一生懸命制御盤の配線をしていると、その色や形状から、勝手に何かに例えて見えてしまうんです。
人目に付く電線は、基本的に黒・グレーがほとんどですが、制御盤の内部は、仕様に合わせて赤/白/青/黄と、使う電線がカラフルです。
多くの人は普段制御盤の内部を見ることはないと思うのですが、制御盤の中はこんなに楽しい世界が広がっているよ!というのを伝える手段のひとつとして、配線アートを選びました。
―(編集部)なるほど…!!ちなみに、西坂さんの所属している五色電機(株)は西坂さんの旦那さんが社長とのことですが、社長は配線アートはされないのでしょうか?
―配線アートをしているのは私一人です。
夫は、あくまで制御盤の製作は仕事であって、アート性を感じることはないそうです。
くず線を利用…制御盤屋ならではの制作背景
―(編集部)配線アートの材料はどのように調達しているのでしょうか?
―(西坂さん)電線は、配線の過程で発生したくず線を利用しています。全ネジやナットは、作りたいものに合わせて調達しています。
例えば、このような作品は、間に挟んでいるナットを通常のナットより厚みの薄い3種ナットを調達することで、電線の密度を上げたりしています。
―(編集部)幾何学的な造形が美しいです。このような作品がくず線を利用して生まれているなんて、革命的です!
アイディアは作業中に舞い降りる
―(編集部)作品サイト(※最後にリンクあり)を拝見し、蚊取り線香や水引きなど、目の付け所がユニークな作品が多いと感じました。「これを配線で作ろう!」という発想は、どんな時に浮かぶのでしょうか?
―(西坂さん)ありがとうございます。思いつくのは、必死に配線しているときです。不思議なことに、暇なときは、思いつきません。
仕事に集中しているつもりなんですが、結束バンドで整線したりしているうちに、この電線をこうしたらこう見えるな…というのが、勝手に浮かんでしまいます。
スキマ時間を利用して制作
―(編集部)作品の構想が決まってから完成までには大体どれくらいの時間がかかりますか?
―(西坂さん)だいたい1~2週間で完成します。昼休みや仕事の空き時間などに少しずつ作っています。
一番の大作は35㎝のクリスマスツリー
―(編集部)どの作品も本当に素敵ですが、今までで一番の大作だと思う作品はどれでしょうか?
―(西坂さん)高さ35cmのクリスマスツリーです。
―こちらは、電線の長さを5mmずつ変えたパーツを36種類用意して作りました。各パーツを別々に管理しないといけないのが大変でした。
―途方もない作業ですね。
―このあと、全ネジに丸形圧着端子とナットを交互に通していくのですが、組み立てはひたすらナットを回す作業になり、ナットの総移動距離は計算すると3.5mにもなります。
―(言葉が出ない…)
SNSでは蚊取り線香が人気
―(編集部)SNSではどの作品が人気でしょうか。
―(西坂さん)「アースな蚊取り線香(冒頭で紹介)」がもっとも好評でした。
SNSでの反応は、「結束バンドが煙のように見えて面白い」「言われないと電線だと気付かない」「日本の夏だなぁ。」など様々でした。
(一般的に接地線が緑色であることと掛けて)「キンチョーじゃない、アースだな」というコメントもありました。
―あっ!だから「アースな」蚊取り線香なんですね!?座布団一枚!
制作のこだわりとコツ
―(編集部)アースな蚊取り線香の制作背景を教えてください。
―(西坂さん)ひらめいたきっかけは工場で蚊が出る季節になって、蚊取り線香を出してきたことでした。
電線が蚊取り線香に見えたというよりは、蚊取り線香が接地線に見えてしまったので、作ることにしました。
本物の蚊取り線香と渦の大きさがなるべく近くなるように、結束バンドのサイズにこだわって選定しています。
―縦方向と横方向の結束バンドを少しずつ交互に締めないと変に余ったりしてしまうので、一見簡単に見えるのですが、実は一番コツがいる作品です。
―シンプルななかに制御盤屋としてのこだわりと技術が集約されているのですね。
廃業予定だった会社を夫婦で受け継ぐ
―(編集部)西坂さんが制御盤屋になったきっかけを教えてください。
―(西坂さん)きっかけは、夫が先に制御盤の仕事をしていたことです。
初めは、何を作っているのかさっぱり分からなかったのですが、もともとネットワークエンジニアとして一日中パソコンを触っていた私にとって「鈑金や部品を用意して、自分の手で一からモノを作り上げる仕事」に大変感銘を受けました。
夫が2018年3月に廃業予定(前社長が急逝されてしまったため)の会社を継いで、そこに私も遅れて参加しました。私自身は、2019年5月からなので、実務に携わって2年になります。
―後継者不足で中小企業の廃業が増える中、貴重な技術が継承されていくのは喜ばしいことです。
作品は購入できます!
ご紹介した配線アート作品たち、実はオンライン販売をされています。
西坂さんの運営されているサイト、ハイセンスハイセンでは、記事内でご紹介した作品(クリスマスツリーのみ非売品です)のほか、オーダーメイドの電線作品も受付中!
ご興味のある方は、ぜひサイトを訪れてみてください!
配線の可能性
配線アートの世界、いかがでしたでしょうか?
私たちにとって身近な材料が、形を変えその存在が広まっていくことで、この仕事へ関心を持つ人も増える、素敵なアプローチであると感じました。
この記事をきっかけに、配線アートの世界に興味を持っていただければ幸いです!
◆ 関連リンク
五色電機:制御盤の設計・製作おまかせください!
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